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卵巣がんの治療を困難にする腹膜播種性転移のメカニズムを世界に先駆け解明

カテゴリ:医療NEWS, 癌治療 タグ: , ,  投稿日:2017年03月15日

国立研究開発法人国立がん研究センター(略称:国がん)と国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科は、卵巣から腹腔内を覆う腹膜にばらまかれたように広がる卵巣がん細胞の腹膜播種(ふくまくはしゅ)による転移について、そのメカニズムを世界に先駆けて明らかにした。

卵巣がんは、お腹の中にがんが広がることで腹水という体液が溜まり、腹部全体が張ってくることによる膨満感や息切れがするといった症状により初めて異常に気づくことが多く、初期での自覚症状に乏しい危険ながんである。そのため、診断された時にはすでに、卵巣からがん細胞が、お腹の中を覆う腹膜にばらまかれたように広がる腹膜播種による転移を起こしているような、進行した状態で発見されることが少なくない。発生要因には遺伝的関与のほか、出産歴がない場合にリスクが高まることも指摘されているが、現時点では発症を予防することは難しく、罹患数、死亡数ともに上昇している。さらに、卵巣がんが進行する分子メカニズムなどは不明な点が多く残されており、有効な早期発見方法や治療法の確立に至ってはいないのが現状である。

一方、細胞外膜小胞(Extracellular vesicles: EVs)の一つであるエクソソームは、直径100 nm前後の微細な小胞で、がん細胞のみならず、あらゆる細胞から分泌されていることが報告されている。これらエクソソームに内包される核酸やタンパク質といった小分子が、受け手となる細胞で機能することで、細胞間相互作用に関与することが報告されており、近年多くの研究分野で注目を集めている。

国がんでは、卵巣がん細胞が分泌するエクソソームが卵巣がんの腹膜播種性転移を促進することを動物モデルにて証明した。その詳細なメカニズムを解明するために、腹膜の主要構成成分である中皮細胞に着目した。同エクソソームが中皮細胞に作用し、アポトーシスと呼ばれる細胞死を誘導することが分かり、結果として、卵巣がん細胞が腹膜播種を成立する上で障壁となる腹膜を破壊していることを明らかにした。また、この現象に重要な役割を持つ、エクソソーム中の分子としてMMP1遺伝子を同定した。

MMP1遺伝子が卵巣がん患者において、重要な遺伝子であることを確かめるために、卵巣がん患者1000人を超える大規模データべースの遺伝子情報も解析した。さらにその中で、ステージ1の早期卵巣がん患者74名に対象を絞ると、MMP1遺伝子の量が少ない患者群は、すべての患者がその後10年の観察期間の間生存しているのに対し、多い患者群は、ステージ1であってもその後、再発・増悪により死亡するケースが約半数でみられることが分かった。よって、MMP1遺伝子量の高低が極めて精度高く、その後の生存を予測しうることが示唆された。

動物モデルにおいてMMP1遺伝子を多く含むエクソソームが卵巣がんの腹膜播種性転移を促進したことを踏まえ、MMP1遺伝子含有エクソソームが、実際の卵巣がん患者にも存在するかを調べた。その結果、腹水の中のエクソソームにMMP1遺伝子を多く含む患者が、今回解析した卵巣がん患者の27%に同定された。また、その遺伝子量は手術前に化学療法を受けていた患者群で、有意に低下することが分かった。

これらの研究成果により、同遺伝子の量が予後や治療効果の予測に有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。今後、本研究で同定したMMP1遺伝子を含んだエクソソームを阻害することにより、卵巣がんの転移を予防するような新規治療開発を目指すという。また、腹水や血清など臨床サンプルの収集も継続し、バイオマーカーとしての意義を前向きに検討することも予定されている。
(Medister 2017年3月13日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 卵巣がんの治療を困難にする腹膜播種性転移のメカニズムを世界に先駆け解明 新たな治療標的かつバイオマーカーとなりうるエクソソームを同定

小児急性リンパ性白血病第一再発の高リスク群対象 医師主導治験全国9施設で開始

カテゴリ:医療NEWS, 癌治療 タグ: , ,  投稿日:2017年03月06日

国立研究開発法人国立がん研究センター(略称:国がん)中央病院は、小児の急性リンパ性白血病の第一再発例の高リスク群の患者を対象に分子標的薬を含む多剤併用寛解導入療法の医師主導治験(第II相試験)を実施することを発表した。

急性リンパ性白血病は、リンパ球の元となる細胞(リンパ芽球)ががん化した白血病で、小児がんの中では最も多く、年間約500例の小児が発症するという。治療はリスクに応じて、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法をはじめ、造血幹細胞移植、放射線治療が行われることもある。初発例の治療成績は年々上昇しており、5年生存率は80%を超えているが、再発例、特に今回の治験を行う高リスク群の予後は不良で新しい薬剤開発が待たれているのが現状である。

新しい薬が承認され、保険で使えるようになるためには新薬の開発研究(治験)が必要であるが、2003年7月に医師や歯科医師が治験を企画して医薬品開発にかかわることが認められるようになった。このように医師や歯科医師が自ら治験を実施することを医師主導治験という。抗がん剤はその適応が細かく厳しく定められている。あるがん種に効くであろうことが分かっている薬剤でも、適応外であれば使うことができない。そこで国がんでは、医師主導治験を積極的に行い、抗がん剤をはじめとする薬剤の適応を広げる取り組み推進している。

本治験の対象は、小児急性リンパ性白血病の1回目の再発の患者のうち、高リスク群の患者である。高リスク群とは、T細胞性リンパ性白血病の骨髄再発と、B前駆細胞性リンパ性白血病のうち初めての発症(初発)から短い期間に骨髄再発をきたした患者となる。高リスク群では欧米で再発小児急性リンパ性白血病の標準治療として開発された従来からの薬剤の組み合わせによる治療では寛解率も不良であり、この群に対しては有望な新規薬剤も存在しないのが現状である。今回、国がんではボルテゾミブと従来から使用される多剤併用療法の組み合わせが、再発リンパ性白血病の高リスク群に対する有効な新しい治療選択肢となる事を期待して医師主導多施設第II相試験を開始した 。

本治験において、ボルテゾミブを加えた多剤併用療法での再発小児急性リンパ性白血病に対する有効性が証明できれば、ボルテゾミブの再発小児急性リンパ性白血病に対する適応拡大につながり、治療選択肢の少ないこの群に対する重要な選択肢の一つとなる可能性が生まれることが期待できる。

(Medister 2017年3月5日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 小児急性リンパ性白血病第一再発の高リスク群対象 医師主導治験全国9施設で開始



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