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がんゲノムビッグデータから喫煙による遺伝子異常を同定

国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野、理化学研究所、統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チーム、米国ロスアラモス国立研究所及び英国サンガー研究所で構成される共同研究グループは、様々な臓器がんにおけるDNA(遺伝子)異常に喫煙がどの程度影響を及ぼしているのかについて、喫煙との関連が報告されている17種類のがんについて合計5,243例のがんゲノムデータを元に検討を行った。

喫煙とがんの関連については、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、肺がんをはじめとするさまざまながんの原因となると結論付けている。また多くのがん種で、喫煙年数が長いほど、1日の喫煙本数が多いほど、また喫煙開始年齢が若いほど、がんのリスクが高まることが示されている。

そこで、本研究の共同研究グループは、喫煙と関連すると報告されている17種類のがんについて、合計5,243症例(喫煙者患者2,490症例、非喫煙者患者1,062症例、喫煙データなし 1,691症例)のがんゲノム変異データ(全エクソン解読4,633症例、全ゲノム解読610症例)を用いて解析を行った。全てのがんのデータを合わせた比較において、喫煙者に発症したがんでは、非喫煙者に発症したがんと比較して、統計的に有意に遺伝子変異の数が多いことが分かった。個々のがんでの比較では、肺がん(腺がん)、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、肝臓がん、腎臓がんにおいて、喫煙者において統計的に有意な突然変異数の増加を認めた。また、喫煙量から計算すると、1年間毎日1箱喫煙することで、平均すると肺では150個、喉頭では97個、咽頭では39個、口腔では23個、膀胱では18個、肝臓では6個の突然変異が蓄積していると推計された。

また変異パターンの解析から、喫煙によって発がんリスクが上昇するがんには少なくとも3つのタイプが存在することが明らかになった。タイプ1はたばこ由来発がん物質暴露が直接的に突然変異を誘発しているがん(例:肺がん、喉頭がん、肝臓がん)、タイプ2はたばこ由来発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発しているがん(例:膀胱がん、腎臓がん)、タイプ3は今回の解析で明らかな変異パターンの増加が認められなかったがん(例:子宮頸がん、膵がん)であった。

本研究成果によって、がんの発症において喫煙が全ゲノム解読レベルで突然変異を誘発していることが再確認され、がんの予防における禁煙の重要性が強調された。さらに、今回たばこ由来発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発するタイプのがんが認められたことで、今後喫煙がどのように間接的な突然変異誘発機構を活性化するのかに関する詳細な分子機構の解明によって、喫煙関連がんの予防や治療が進むことが期待されている。また、本研究で用いられた解析手法によって、他の発がんリスク要因(肥満、食事等の生活習慣)についても、その背景にある分子実体の解明からがん予防戦略を加速する鍵の解明が期待される。
(Medister 2016年11月7日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター がんゲノムビッグデータから喫煙による遺伝子異常を同定-1年間毎日1箱の喫煙によって肺では150個の突然変異が蓄積-