β-グルカンの抗インフルエンザ効果の検証
β-(1→3),(1→6)-D-グルカンはグルコースがβ1-3型とβ1-6の結合で連なった多糖であり、マッシュルーム、酵母および真菌で生成され、免疫賦活作用が確認され健康食品としても利用されている。キノコ由来のβ-グルカンは抗ガン剤あるいは化学療法の併用薬としても承認されている。
北海道大学の宮崎忠昭特任教授らのグループは、β-(1→3),(1→6)-D-グルカンによるインフルエンザの予防効果をマウスで試験し、学術誌「PLoS One.」に報告(2012; 7(7): e41399.)した。
β-(1→3),(1→6)-D-グルカンを豊富に含む酵母Aureobasidium pullulans培養液(AP-CF)をマウスに経口投与し、インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (PR8; H1N1)株を致死量の力価で感染させた。ウイルス感染後のマウス生存率は、AP-CF投与により有意に増加した。また、マウスの肺ホモジネート中のウイルス力価はAP-CF投与により減少した。マウス肺での炎症性サイトカインのmRNA発現量や解析したリンパ球数についてはAP-CF投与による有意差は認められなかった。ところが、マウスマクロファージ由来のRAW264.7細胞をβ-(1→3),(1→6)-D-グルカン (AP-BG)で刺激した5時間後には、RIG-I (retinoic acid-inducible gene-I) やMDA5 (melanoma differentiation-associated protein 5)といったウイルスセンサーのmRNAが強く発現していた。更にPR8ウイルスの複製はAP-CFの投与により抑制された。
以上より宮崎特任教授らは、「AP-CFの投与によりウイルスセンサーの発現が増加することで、ウイルス複製が阻害され、インフルエンザの予防効果を示す可能性が示唆された。」と述べている。また弊社取材に対し、「今回の研究では酵母抽出液を素材として検証したため、副成分の協調的作用は否定出来ないものの、現在のところ、そのような成分の特定と作用を確認していない。今後の展望については、ヒトでの臨床試験が必要となるが多額の研究費を要するため、現在は予定していない。今後、どのような構造のグルカンが最も効果が高いのか、また他の病原体に対する生体防御効果も認められるのか、等を検討したい。」とのことで、続報が期待される。(Medister 2012年8月13日)
βグルカンの基礎と応用―感染、抗がん、ならびに機能性食品へのβグルカンの関与 (バイオテクノロジーシリーズ)