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【マレーシア】横行する違法の中絶手術と死亡例

マレーシアで違法中絶件数が増えている。クアラルンプール首都圏でも多数の報告があり、産婦人科が患者に法外な手術代を請求することが問題となっている。妊娠してから間もない場合(10週間以内)の中絶手術は通常麻酔と掻爬術により10分も掛からない。合計で千リンギットも掛からない手術だが、その2,3倍の額を求める民間病院があるという。法律で定められている中絶に関する費用は、手術代は明記されているものの、入院費・施設の利用料金等は明確に書かれていない。そのため一般の患者が料金体系を完璧に把握できず、必要以上の料金を求められても疑問に抱かず支払ってしまうのだ。

このような患者による「誤解」以外に上記のようなトラブルを招いている理由としてマレーシア特有の社会的要因が挙げられる。原則マレーシアでは中絶は認められていないが、出産にあたり妊婦の健康が著しく損なわれ、命を奪うようなリスクがある場合に限り手術が許可されている。このような例外のケースに当てはまらない患者が中絶手術を受けるのは刑法に違反するため難しい。現在問題となっているのは違法であることを理解している女性が民間の医師に多めに払い手術を受けているということだ。

The star online紙の取材によると、保健省のライ氏はこの問題を指摘した報道機関に対して、中絶手術のルールを見直す必要があることを認め、法律改正も検討するべきであると述べた。今年9月に政府は全国の国立病院に向けて中絶手術のガイドラインを配布したばかりだが、民間病院・一般の患者に的確な情報を知らせることが早急に求められる。例えば上記のガイドラインでは、医師が患者に対して事前にヒアリングを行い、患者が手術を受ける必要があるか健康診断等により判断することを義務付けているが、同様の手順を民間病院でも踏む必要があるだろう。マレーシア家族計画及び人口委員会(NPFDB)のデータによると同国では毎年9万人以上が中絶手術を受けており、その内約5人が手術の失敗により死亡している。不当な請求も問題だが、それ以前にルールを無視する医師・病院を野放しにせず、患者が安全な環境で(必要のある場合は)中絶手術を受けられるよう政府は改善に努めるべきだろう。(Medister Taro 2012年12月11日)

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