【マレーシア】熱帯樹由来の抗がん剤 シルベストロール
マレーシアの研究施設とアメリカの大学が共同で新しい抗がん剤の開発、普及推進に取り掛かっている。今は研究段階だが、成功に繋がればマレーシアにとっては貴重な収入源となることだろう。研究員たちが注目しているのはシルベストロールという熱帯樹などに含まれている化学物質であり、この物質が新薬誕生の鍵となると期待を寄せている。シルベストロールが採取可能な熱帯樹は主に東南アジア圏にあり、マレーシアに加えてボルネオ、インドネシアなどにも多く存在する。これまでに同物質はマレーシアでは抗がん剤としてではなく、長年消化器官の病気を治すための伝統的な医療薬として用いられてきた。
シルベストロールの本格的な研究は2004年頃からアメリカのオハイオ州立大学で行われてきた。同物質を実験中マウスに投与したところ、見事体内にある癌細胞を破壊したため、人間に対しても同じ効果が期待できるのではないかと度々専門家から声が挙がった。特に肺、胸、前立腺にできる癌や白血病に効果があると見込まれており、患者の免疫力を下げるような副作用も特にないと同大学の主任研究員、キングホーン氏は研究成果を数年前に発表している。これが本当だとすれば、患者を苦しめることがない画期的な治療法と言えるだろう。同氏によるとシルベストロールはある種の翻訳阻害剤であり、癌細胞の増殖を妨げる効力があるという。研究チームはマウス以外の動物で実験を繰り返し、3~4年後に臨床試験を始められるよう尽力している。
マレーシアのサラワク生物多様性センター(SBC)とオハイオ州立大学は研究促進のために、センターがシルベストロールの特許権を大学に譲渡する契約を交わし、それ以降は物質をSBCが大学に提供し続けてきた。将来的に臨床試験・薬の商業化が成功した時に特許権使用料をSBCが受け取る約束となっている。SBCは1998年からサラワクの環境保全に取り組んでおり、これまでに数々の自然生産物の採取・研究に貢献してきた。大学は主にサラワクの樹木を頼りに物質を入手しているが、今後は化学合成等によって物質を自前で用意する方法も模索している。(Medister Taro 2012年12月5日)
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