【中国】北京の大気汚染と肺癌の急増問題
北京の都市部で肺癌を発症する患者が急増している。北京市衛生局のデータによると過去10年間で実に56%の増加率を記録した。2010年の時点では北京在住の男性の間での癌の発症件数は肺癌が最も多く、女性の間での発症件数は乳癌に続き2番目であった。また35歳以上の男性患者が激増したという。今では5人に1人の割合で発症しているとのことだ。同局の代表者は統計の発表後、増加の主要因が喫煙であると述べたが原因は別の所にありそうだ。確かに中国は世界的にも最大のタバコ生産・消費国であるため、喫煙が癌の発症を招いているという政府の主張も頷けるところがある。しかし世界保健機関が2010年に発表したGlobal Adult Tobacco Surveyの国別レポートでは、1996年から2010年までの中国における(15歳から69歳の)男性喫煙者の数は減少傾向にあることが明らかになっている。
中国のソーシャルメディアの多くは喫煙ではなく、大気汚染が肺癌発症の最大の原因であると指摘している。北京を含め中国の都市部の多くは近年の工業化・経済成長によって深刻化した大気汚染の問題に悩まされている。例えば今年3月には汚染により発生した霧雲が余りにも酷かったため、北京市内で離陸、着陸するフライトに支障をきたした。また6月には湖北省の武漢市で黄味がかった濃い霧が舞ったという。北京に所在するアメリカ大使館は町の空気質が「非常に不健康」・「危険」なレベルであるとツイッター上で述べている。中国政府はあくまで喫煙が最大の問題であると述べており、個々人の責任が大きいとして具体的な対策を提示していない。ネットユーザーからは国全体の環境問題から目を背けていると批判を受けている。政府がアメリカ大使館に対してツイッターの報告を止めるように指示したのも、当局による一種の情報統制なのかもしれない。
最も深刻な例として北京を取り上げたが、大気汚染、そしてそれによって増加した肺癌の患者は国全体が抱える問題だ。毎年中国では60万人以上が肺癌により死亡している。また汚染された地域での生活は、肺癌以外にも心血管疾患など他の病気にも繋がりかねない。国の健康事情に関し正確な情報を発信するのは政府の責務でもある。また環境問題は個々人で対処するのは限界がある。実際北京の場合は体に有害な粒子があまりにも小さいため、マスクなどを付けても特段効果は無いと言われている。早急に状況を改善しなければ、住民の寿命は確実に縮まることになるだろう。(Medister Taro 2013年1月22日)
酸性雨から越境大気汚染へ (気象ブックス) | |
藤田慎一 |