医療NEWS

【特集】低温サウナ(和温)療法による慢性閉塞冠動脈関連虚血の心筋潅流ならびに慢性心不全患者の内皮機能の改善

低温サウナ(和温)療法は鹿児島大学大学院循環器・呼吸器・代謝内科学の鄭忠和教授らの研究グループが提唱している治療法で、60℃の乾式低温サウナなどで全身を15分間均等加温・保温をし、深部体温を約1.0℃~1.2℃上昇させた後、さらに30分の安静保温し、水分補給するという方法で、週に数回、数週間継続するものだ。和温療法により、末梢動脈疾患の患者では虚血症状を和らげ、また慢性心不全患者における運動耐容能を改善することが知られていた。

今回、富山大学医学部第二内科の井上博教授らのグループは、連続的な和温療法は慢性閉塞冠動脈関連虚血の患者における心筋潅流を改善することを医学誌「Int J Cardiol.」のオンライン版(2012 Jan 12)に、慢性心不全患者における運動耐容能および内皮機能に及ぼすことを医学誌「Am J Cardiol.」に報告し掲載(2012 Jan 1;109(1):100-4.)された。

(1)慢性閉塞冠動脈関連虚血患者への和温療法
井上教授らは、和温療法は冠状動脈の慢性完全閉塞(CTO)に関連した虚血患者における心筋潅流を改善するかどうかを検討した。CTOに関連した虚血患者24人に対し、虚血の重症度を、201Tl-心筋血流シンチグラフィーにより定量した。和音群(16人)は15分間60℃の遠赤外線ドライサウナ浴で3週間毎日施術したあと、30分間毛布で覆われたベッドの中で保温した。コントロール群(8人)は、3週間間隔で二回心筋血流シンチグラフィーを実施した。

コントロール群ではストレススコア(SSS)と心筋シンチグラフィー(SDS)の検査結果に変化はなかったが、和温群はSSS(16±9→7±6、p <0.01)およびSDS(7±4→3±2、p <0.01)を改善した。また、トレッドミル運動時間(430±185→511±192、pは<0.01)、上腕動脈のFMD値(4.1±1.3→5.9±1.8%、P <0.05)を改善する一方、幹細胞群を含むCD34陽性骨髄由来細胞数は減少させる傾向がみられた。以上より、井上教授らは冠動脈インターベンションに適していない重度の冠動脈病変を有する患者に対しても、代替の治療として和温療法を提供できるだろうと述べている。 (2)慢性心不全患者への和温療法 和温療法は、心臓機能だけでなく、慢性心不全患者における運動耐容能を改善することが示されているが、これらの改善については、この治療の基礎となるメカニズムは解明されていなかった。そこで、井上教授らは、慢性心不全患者40人(平均年齢68.3±13.5歳)和温療法を1週間あたり5回、3週間処置された。治療前後ですべて患者の6分間歩行テスト、心エコー検査、神経液性因子およびCD34陽性細胞数、FMD(Flow-Mediated Dilation)テストを評価した。心肺運動負荷試験は20人の患者で行った。 その結果、和温療法は左室駆出率(30.4±12.6%→32.5%±12.8%、P = 0.023)、血漿中ノルエピネフリン濃度(400±258→300±187 pg / ml、P = 0.015)、血漿中脳ナトリウム利尿ペプチド濃度(550±510→416±431 pg / ml、P = 0.035)。 さらに和温療法は、FMD値の改善(3.5±2.3%→5.5%±2.7%、P <0.001)と相関して6分間歩行距離(337±126メートル→379 ± 126メートル、P <0.001)に完全させ、 CD34陽性細胞数の増加も観察された。 6分間歩行距離の変化は、左心室駆出率とFMD値と正の相関を示し、血漿中ノルエピネフリン・脳ナトリウム利尿ペプチド量と負の相関を示した。また、多変量解析により、FMD値の増加が、6分間歩行距離の改善の唯一独立した決定因子であることが示された。さらに和温療法は有意に最高酸素摂取量(peak VO2)を増加させ、この増加はまた、FMD値の変化と相関した。以上より、井上教授らは「慢性心不全患者における連続的なサウナ療法は血管内皮機能の改善に伴う運動耐容能を向上させると考えられる」と述べている。 (3)血管内皮機能(FMD値)が和温療法の重要な評価軸に これら2つの研究より、慢性閉塞冠動脈関連虚血患者では心筋シンチグラフィーなど疾患の指標となる数値と共に、血管内皮機能の指標となるFMD値も連動することが示唆された。また、慢性心不全患者の運動耐容能の研究から、慢性心不全患者の6分間歩行距離や最高酸素摂取量とFMD値が相関することが明らかとされた。富山大学で和温療法を導入したのは2007年10月からであり、今後も各種の心血管疾患に対する和温療法の効果、さらには血管内皮機能の重要性が検証されることが期待される。(【特集】Medisterニュース 2012年1月31日)