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【特集】日本人の喫煙、アルコールによる全身性エリテマトーデスの発症リスク

全身性エリテマトーデス(SLE)は全身の臓器に炎症がみられる自己免疫疾患の一つだ。男性よりも女性に多く発症し、我が国の発病率は10万人あたり10~100人と推定される。遺伝的素因に加え、感染、性ホルモン、紫外線、薬物などの環境因子が病因とみられるが、詳しいことは不明な点が多い。

 

札幌医科大学内科学第一講座の高橋裕樹准教授らは、九州大学、佐賀大学、聖マリア学院大学、北海道大学、放射線医学研究所らの研究者と共同で、全身性エリテマトーデス(SLE)の病因リスクに関し、喫煙とアルコール摂取の関与について、ケースコントロールスタディを実施し、医学誌「J Rheumatol.」のオンライン版に報告(2012年5月15日)した。

 

高橋准教授らは、日本人女性で、171例のSLE患者と、492例の健常者の間で、喫煙との関連を調査した。その結果、非喫煙者と比較して、喫煙によりSLEのリスクが大きく高まる(オッズ比3.06、95%信頼区間、1.86-5.03)ことが明らかとなった。一方、軽度から中程度のアルコール摂取は、SLEのリスクを軽減した(オッズ比0.38、95%信頼区間、0.19-0.76)。

 

筆頭著者の九州大学医学研究院の清原千香子講師は取材に対し、「今回の報告により、SLEの発症に喫煙が影響することを示した。SLEに限らず、多くの慢性疾患において「発症」と「増悪」の因子は共通していることが多いので、SLEにおいても喫煙は発症のリスク要因あるので、増悪のリスク要因である可能性は高いと考えられる。喫煙による活性酸素種(ROS)への曝露が、autoimmune responseを高め、その結果SLEの発症や増悪リスクを高めると考えられている。また、肺がんの場合、能動喫煙は非常に大きなリスク要因だ。しかし、受動喫煙も小さいながらリスク要因として認められている。さらに、以前私達は能動喫煙では遺伝的な素因を考慮する(感受性遺伝子を保有している)とSLEのリスクは非喫煙で感受性遺伝子を有しないものに比べて10倍ほどになることを報告(Scand J Rheumatol. 2012;41(2):103-9)した。受動喫煙の場合も遺伝的感受性を考慮すると、肺がんの研究と同様に無視できないリスクになると考えられる。」と述べている。

 

また、飲酒に対する効果に対し、「飲酒は予防的因子であることを示したが、飲酒量や頻度が高いと予防的な作用は統計学的には有意ではなくなっていた。適度な飲酒がSLEに予防的に作用するということだ。ビールやワインは抗酸化物質を含むので、これらの作用がSLEに予防的に作用するかもしれないと考えたが、アルコールの種類によりSLEの発症リスクには差は認められなかったため、エタノールあるいはその代謝物がリスクの低下に関与しているのではないかと考えているが、飲酒に関しての作用機序は不明だ。飲酒によってストレスの軽減や血管の保護作用があるではなかろうかと考えている。」と述べている。

 

発症機序や治療法に不明な点が多い難病のSLEだが、今後の展望について清原講師は、「食事パターンと慢性疾患について解析は最近大きな注目を集めているが、食事パターンと特にSLEについて検討を進めている。SLEと食事パターンとの解析はこれまで報告がなかった。食品は組み合わせて摂取されることにより、各食品並びに栄養素摂取量の相関は高くなり、交絡や相互作用のため、それぞれの特異的な影響を区別することが難しい。さらに、一つの栄養素や食品の影響は小さすぎて検出されないことが多い。」と述べ、難病の発症リスクや増悪リスクの低下に向け、更なる研究の進展が期待される。(【特集】Medisterニュース 2012年5月21日)