ファブリー病の血管計測
ファブリー病は、血漿グロボトリアシルスフィンゴシン(lysoGb3)の増加を促すα-ガラクトシダーゼAの欠損に起因するX連鎖遺伝性リソソーム貯蔵障害である。典型的なファブリー病ではスフィンゴ糖脂質が全身の細胞のライソゾームに蓄積し、多臓器障害が現れる。心障害や腎障害を主徴とする非典型のファブリー病も知られている。これらはいずれも血管疾患として表出する。根本的な治療として、2001年から欧州では遺伝子組換え技術を用いて作製されたヒトα-galactosidase A酵素蛋白を2週間に1回点滴で投与する酵素補充療法が一般臨床で行われるようになった。日本では2004年から導入され、早期に治療を開始することにより、臓器障害や症状の改善、臓器障害や症状の増悪の抑制が可能とされている。
アムステルダム大学(オランダ)のAerts JM氏らは、頸動脈内膜中膜厚(IMT)、FMD検査、脈波伝播速度、および終末糖化産物を57例のファブリー病患者群と55例の健常者群、10例の非典型のファブリー病患者群で計測し、その結果を医学誌「Hypertension」のオンライン版に報告(2012 Aug 6)した。
ほとんどの患者は、酵素補充療法を受けていた。典型的なファブリー病の男性患者群では、上腕FMD値は減少し、頸動脈IMTは増加していた。女性と非典型のファブリー病患者群では、健常者群と同等であった。脈波伝播速度は全体で差がなく、終末糖化産物は非典型のファブリー病患者群でわずかに増加した。FMD値については、lysoGb3レベルの上昇により、年齢や性別とは独立してFMD値を低減させた。
以上よりAerts JM氏らは、「頸動脈IMTの増加と上腕FMD値の減少は、年齢や性別と独立して、血漿lysoGb3レベルに相関して典型的なファブリー病に起こる。これらは酵素補充療法にも関わらず依然として存在していることが示された。」と結論づけた。故に、酵素補充療法後の将来的な心血管疾患におけるリスクの検証など、今後の課題として確認していくことが重要であると考えられる。(Medister 2012年8月10日)
ファブリー病―基礎から臨床までの最近の知見