ラットの外側視床下部のPAR1活性化による食物摂取とREM睡眠誘導の仕組み
プロテアーゼ活性化受容体1(PAR1)は、全身性の発現を示し、トロンビンやトリプシンを代表とするプロテアーゼに対する受容体として知られている。血液凝固の調節や消化器の機能調節の研究などが進展しているが、近年、神経系における機能も注目されてきている。
培養ラット海馬神経細胞におけるPAR1の活性化により、カンナビノイド受容体の内在性リガンドである2-アラキドノイルグリセロールを介してカンナビノイド受容体1(CB1R)を活性化し、シナプスの逆行性シグナル伝達を作動させる。CB1Rは、神経伝達物質の放出を抑制するマリファナと内在性カンナビノイドによって活性化される代謝受容体だ。CB1Rの活性化により、レム睡眠と食物摂取量を増加させる。
メキシコ国立自治大学のProspéro-García O氏らは、食物摂取や睡眠覚醒周期に対する外側視床下部(摂食と覚醒などを制御する組織)におけるPAR1活性化の効果を評価して、医学誌「Neuroreport」のオンライン版に報告(2012 Aug 9)した。
ラットの外側視床下部の両側に睡眠状況を記録するための電極と、選択PAR1アゴニストペプチドのS1820を投与するためのカニューレを移植した。PAR1の活性化によって誘発される効果はCB1Rの活性化により媒介されたかどうかを判断するために、Prospéro-García O氏らはS1820の効果をブロックするCB1Rの逆アゴニストAM251を投与したところ、PAR1の活性化により食物摂取量とレム睡眠は増加し、その効果がAM251により抑制されたことから、PAR1は外側視床下部において、CB1Rの活性化を介して食物摂取と睡眠覚醒周期を調節していることが示された。
以上よりProspéro-García O氏らは、「PAR1活性化によって誘導される行動変化が明らかとなり、さらに内在性カンナビノイドは食物摂取とREM睡眠のプロモーターであるという概念が支持される。」と述べている。この研究から、PAR1はトロンビンやトリプシンなどのプロテアーゼによって活性化されるGタンパク質共役型受容体であるが、これまでの血液凝固の制御などの機能に加え、新たな機能が見出されたと考えられる。(Medister 2012年8月17日)
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