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世界初の陽子線治療システム PROBEAT-RTが医療機器の製造販売承認を取得

2014年10月23日、株式会社 日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)は、国立大学法人 北海道大学(総長:山口 佳三/以下、北大)と共同開発を進めていた、動体追跡照射技術を適用した「陽子線治療システム PROBEAT-RT」が、薬事法に基づく医療機器の製造販売承認を取得したと公表した。

PROBEAT-RTは、北大の持つ動体追跡照射技術と、日立の持つスポットスキャニング照射技術を組み合わせることで、世界初の陽子線治療システムとなった。呼吸等で位置が変動する可能性のある腫瘍に対して、高精度な陽子線の照射を実現できるという。

陽子線治療は、従来の放射線治療と大きく違う点がある。放射線の強さを調節できる点だ。X線を照射すると、身体の表面に近い場所で放射線量は最大となり、徐々に弱くなるが、癌細胞の裏側にある正常組織へも、放射線が照射されてしまう。一方、陽子線にはある深さで放射線量が最大となり、それより先には到達しない「ブラックピーク」と呼ばれる特性がある。このブラックピークを癌細胞に合わせることで、癌細胞にのみ放射線を照射できる。それでも、呼吸などで癌細胞の位置が微妙にずれる場合、正常細胞に照射されてしまう。この問題を解消することが出来るのが、動体追跡照射技術だ。
一方のスポットスキャニング照射技術は、腫瘍を照射する陽子線ビームを、細いまま移動させながら次々とピンポイントに照射することが出来、複雑な形状をした癌細胞でも、形状に合わせて高い精度で陽子線を照射できる。陽子線ビームを拡散させないため、正常細胞への影響が最小限になる。

現在のところ、日本で陽子線治療が受けられる施設は9か所しかなく、さらに先進医療であるため治療費用は非常に高額となる。それでも治療を受けた患者数は年々増加している。PROBEAT-RTの登場で、今後さらに適応範囲が広がることも予測される。PROBEAT-RTが利用できるのは今のところ北大のみだが、今後の動向に注目したい。
(Medister 2014年11月13日 葛西みゆき)

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