中央病院「遺伝子診療部門」開設
人の病気は一般に、生活習慣・環境要因、加齢、遺伝要因の3つの複雑な組合せで発生し、進展する。生物の遺伝情報の総体をゲノムと呼ぶが、近年になってがんを初めとするさまざまな疾患の診断・治療・予防にも、遺伝子あるいはゲノム情報が盛んに活用されるようになってきた。
国立研究開発法人国立がん研究センター(略称:国がん)は、がん診療に網羅的な遺伝子診断に基づく診療を本格導入するため、中央病院に「遺伝子診療部門」を開設した。
ゲノム診療は大きく分けて、遺伝的にがんになりやすい人への「個別化予防」と、個々のがん患者の遺伝子異常に基づく「個別化治療」がある。その中でも、個別化治療に関しては、検査の品質管理、遺伝子解析情報の臨床的意義付け、患者への伝達方法、情報の取り扱いなど様々な課題が残っており、世界的にも日常診療への本格導入が進んでいない。一方、遺伝子解析技術が進歩し、治療標的となるがんの遺伝子異常も次々と明らかにされており、個別化治療としてのゲノム診療を日常診療に導入することが喫緊の課題となっている。
中央病院では、2013年からは個々の患者の治療選択における網羅的遺伝子検査の有用性を検証する臨床研究「TOP-GEAR(トップ-ギア)プロジェクト」を開始し、2015年末には十分な精度管理が担保された網羅的遺伝子検査室を院内に設置、「個別化治療」としてのゲノム診療を開始するための体制整備を進めてきた。
その中の「遺伝子診療部門」は、中央病院や研究所など各部門のゲノム診療や研究に関わるメンバーで構成され、専門家チームによる最終診断、解析結果レポートの作成、診療コンサルテーション、遺伝相談外来併診など、中央病院の全診療科をサポートしている。この部門の開設により、ゲノム診療を日常診療に本格導入する体制が整った事が大きな進展だという。なお、「個別化予防」としてのゲノム診療は、従来通りに中央病院の遺伝相談外来で行っており、遺伝性のがんについての相談も続けていくという。
(Medister 2016年4月11日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 中央病院「遺伝子診療部門」開設 全診療科のゲノム診療をサポート、日常診療に本格導入