受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターは、日本人の非喫煙者を対象とした受動喫煙と肺がんとの関連について、複数の論文を統合し、解析するメタアナリシス研究の結果を公表した。本研究では、受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんになるリスクが約1.3倍で、国際的なメタアナリシスの結果と同様であることが示された。
能動喫煙と肺がんの関連については、多くの調査、研究によりリスク要因として確実であることが明らかで、日本では肺がんの死亡のうち、男性で70%、女性で20%は喫煙が原因と考えられてきた。また、肺がん以外のがんとの関連も明らかで、がんの死亡のうち、男性で40%、女性で5%は喫煙が原因と考えられている。
本研究では、日本人の非喫煙者を対象に受動喫煙と肺がんの関連を報告した426本の研究のうち、適用基準を満たした9本の論文結果に基づきメタアナリシスを行った。論文検索方法として、まず日本人の非喫煙者を対象に受動喫煙と肺がんの関連を報告した研究を網羅的に検索した。次に、メタアナリシスに適用する論文の選択を行い、さらにメタアナリシスに利用する項目を論文から抽出した。各文献及びデータの選出については、2名が独立に行った。
解析方法としては、まず各論文について抽出されたリスク推定値から代表的なものを選び、すべての論文を統合した相対リスクを算出。次に、研究デザイン、出版年、交絡因子の調整有無で層別して同様に統合相対リスクを算出。さらに、出版バイアス(関連を認めた研究が選択的に出版される傾向)があるかどうかを統計学的に検討し、出版バイアスを補完した場合に統合相対リスクがどう変わるかを検討した。
解析の結果、日本人を対象とした疫学研究のメタアナリシスにおいて、受動喫煙と肺がんとの間に統計学的に有意な関連が認められた。また、受動喫煙による相対リスクは約1.3倍で、国際的なメタアナリシスの結果と同様であっただけでなく、研究デザイン、出版年、交絡因子の調整有無によって層別してもほぼ同じ結果であった。さらに、出版バイアスは統計学的に有意ではなく、出版バイアスを補完しても結果は変わらなかった。
本研究結果を踏まえ、当センター社会と健康研究センターを中心とする研究班は、受動喫煙における日本人を対象とした科学的根拠に基づく肺がんのリスク評価を「ほぼ確実」から「確実」にアップグレードした。これに伴い、日本人の実情に合わせ喫煙、飲酒、食事、身体活動、体形、感染の6項目でがん予防法を提示しているガイドライン「日本人のためのがん予防法」においても、他人のたばこの煙を「できるだけ避ける」から“できるだけ”を削除し「避ける」へ文言の修正を行い、受動喫煙の防止を努力目標から明確な目標として提示したという。
(Medister 2016年9月5日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍 肺がんリスク評価「ほぼ確実」から「確実」へ