変形性関節症関連遺伝子の新たな発見
変形性関節症(OA)は高齢者の痛みと障害の原因となる最も一般的な関節炎である。筋力低下、加齢、肥満などが危険因子となり、経年変化による一次性のものと、関節リウマチや怪我により発症する二次性のものがある。平成19年に厚生労働省の報告では、重度の低いものも含めると、変形性膝関節症患者数は自覚症状を有する患者数で約1000万人、潜在的な患者数(X線診断による患者数)で約3000万人との推定もあり、国民の4人に1人、高齢者の2人に1人という疾患である。変形性関節症は遺伝的要素が強い相関があるとされるが、サンプルサイズと表現型の不均一性により、これまで十分な研究が行われていなかった。
今回、arcOGENコンソーシアムの研究チームは、欧州の重症OA患者7410人(80%が関節全置換術を受けた患者)を対象に、コントロール群は英国から11,009人を受け入れ、大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、医学誌「The Lancet」に報告(Volume 380, Issue 9844, Pages 815 – 823)した。
その結果、OAと有意に関連する遺伝子座を5カ所、閾値以下の遺伝子座を3カ所見出した。第3染色体のrs11177とは完全な連鎖不平衡にあるrs6976に強い関連性がみられた(オッズ比1.12)。この遺伝子座のSNPには、ヌクレオステミンコード遺伝子であるGuanine nucleotide-binding protein-like 3(GNL3)のミスセンス多型がコードされおり、ヌクレオステミンレベルはOA患者の軟骨細胞で高いことが判った。また、第9染色体のASTN2(9q33.1)、第6染色体のFILIP1(6q14.1)とSENP6(6q14.1:SUMO1-SPECIFIC PROTEASE 1)の領域、第12染色体のKLHDC5 (E3リガーゼ)とPTHLH(12p11.22:PARATHYROID HORMONE-RELATED PROTEIN)の近く、CHST11(12q23:Chondroitin 4-sulfotransferases)の近くの領域が重要であることが判った。OAの強力な危険因子となる「体重」に関連するFTO遺伝子(16q12.2:FAT MASS- AND OBESITY-ASSOCIATED GENE)にも、OAと遺伝的な相関のある領域が存在した。
以上より、本研究により新たな将来の治療ターゲットのヒントが得られた。いずれの遺伝子座の近傍に位置する遺伝子も、これまでOAとの関連性の示唆はほとんどなく、今後は各遺伝子の分子生物学的な解析と、疫学的な相関関係が主要な研究テーマとなってこよう。研究の発展が期待される。(Medister 2012年9月5日)
山田英司 変形性膝関節症に対する保存的治療戦略
(理学療法士列伝―EBMの確立に向けて)