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幹細胞の小児気管への移植による2年後のフォローアップ

脳死者などからの臓器提供は、ドナーの時期が来るまで待つことがあり、近年改正法が施行されて増えてはいるものの、必ずしも使い勝手の良い治療法とは言えない。人口 100万人当たりに換算すると、我が国では 0.36 人ほどであり、欧米諸国の10 -20 人、台湾の 3.7 人、韓国の 8.2 人と大きく遅れをとっている。

幹細胞による細胞組織工学、細胞移植治療は、子どもを含んだ患者の臓器不全などの治療で、今後患者のための新たな選択肢になるかもしれない。幹細胞を使って成人の気道を置換して6ヶ月後も良好であるという報告もある。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン耳研究所のMartin A Birchall氏らは、子どもの気管に対し幹細胞による細胞移植治療を施し、2年後のフォローアップについて研究をまとめ、医学誌「The Lancet」に報告(Volume 380, Issue 9846, Pages 994 – 1000, 15 September 2012)した。

12歳の少年は、先天性気管狭窄症と肺動脈スリングを生まれついて持っていた。その気道は、死体からの臓器移植に失敗した後、金属ステントによって維持されている。刺激因子顆粒球コロニー(CSF)の短期の投与後、骨髄観葉系幹細胞は自家上皮のパッチに足場として播種された。ヒト組換えエリスロポエチンは血管新生のために用いられ、軟骨形成のためにTGF-βを用いた。ヒト組換えエリスロポエチン静注は術後も続けられた。Martin A Birchall氏らは生存率、罹患率、内視鏡の外観、細胞診とブラッシングのプロテオミクス、末梢血球数について検討した。

強力な好中球応答は最初の手術後8週間でみられた。上皮の修復に関しての細胞学的なエビデンスは、術後1年まで明確にはならなかった。また、移植後18ヶ月までは生体力学的強度は十分でなかったようだ。術後18ヶ月後、通常の胸部CTスキャンと肺換気血流スキャン結果が得られ、11cmに成長していた。2年後のフォローアップで、少年は機能的な気管を持ち、学校に通えるようになったという。

以上よりMartin A Birchall氏らは、「小児における最初の事例であり、幹細胞による組織工学的移植技術の可能性が拡がっただけでなく、さらなる研究の必要性も見えてきた。」と述べ、今後の発展が期待される。幹細胞による治療はドナーの心配をすることがなく、移植治療を大きく変える治療法となることから、本格的な導入を前に、より一層の慎重な技術開発が求められる。(Medister 2012年9月18日)

小児慢性疾患のサポート (小児科臨床ピクシス)
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