心血管リスクをFMD-AUC120で予測する
心血管危険因子と上腕動脈流依存性血管拡張(FMD)の経時的な解析による血管内皮機能障害の間の関係は、依然不明のままである。
自治医科大学の循環器科苅尾七臣教授らのグループは、少なくとも一つの心血管危険因子を持つ257例の患者を登録し、心血管危険因子とFMD値の関連性を検証し、医学誌「J Am Soc Hypertens」に報告(2012 Mar-Apr;6(2):109-16)した。
ピーク径の変化率、(ΔFMD)、膨張の最大勾配から計算される最大FMD値(FMD-MDR)、半自動エッジ検出アルゴリズムを使用した60秒、120秒膨張期間の膨張曲線として計算される積算FMD応答(FMD-AUC60、FMD-AUC120)を計測した。
フラミンガム•リスクスコアは、米国マサチューセッツ州フラミンガムでの50年間以上にわたる住民の健康調査であり、心臓病の既往がない被験者を対象とした、10年以内の冠動脈疾患(CHD)の発症予測であるが、FMD-AUC60 並びにFMD-AUC120は、フラミンガム•リスクスコアと負の相関を示し、一方でΔFMD 、もしくはFMR-MDRにはみられなかった。フラミンガム・リスクスコアは、FMD-AUC120のための最も高い三分位値の患者に比べて、最も低い三分位値の患者で有意に高かった。FMD-AUC120のための最も低い三分位値は、年齢、性別、喫煙や飲酒状態で調整後、フラミンガム・リスクスコア(β= 0.10、P =0.011)と独立していた。
以上より苅尾七臣教授らは、「FMD-AUC120は心血管リスクと関連していた。」と結論した。筆頭著者である自治医科大学循環器内科の甲谷友幸氏は取材に対し、「フラミンガム・リスクスコアは白人のデータを元にモデル化されている心血管リスク予測のマーカーであるが、日本人では心筋梗塞より脳卒中に比重がかかるため、NIPPON DATAなど日本のエビデンスを踏まえると、フラミンガム・リスクスコアの構成因子の中でも特に血圧管理が重要になるだろうと考えられる。現時点ではまだエビデンスが蓄積されておらず、基準値も明確ではないため、FMD-AUC120を臨床で参照するには今後大きなデータベースで検証される必要があると考えている。追跡研究でFMD-AUC120の低下と心血管イベントの実際の発生を検討したいと考えており、実際にFMD-AUA120の低下が心血管イベントを予測できれば、今後サロゲートマーカーとしての価値が認められると考えられる。」とコメントした。今後の研究により、疾患リスクの予測精度向上が期待される。(Medister 2012年8月30日)