揺さぶられっ子症候群の子羊モデルによる検討
“揺さぶられっ子症候群”と呼ばれる非偶発的頭部外傷(NAHI)は、3歳未満の子供の死亡および重度の神経学的機能不全の主要な原因である。欧米、特に米国では児童への叱り方として「両肩を掴んで、体を前後に揺する」ことがあり、米国の揺さぶられっ子症候群センター(National Center on Shaken Baby Syndrome、NCSBS)によると、米国で年間1200~1400件ほどあり、うち約25%の乳幼児が死亡、生存できた乳幼児の8割に障害が残っているという報告もある。
揺れだけで脳損傷や死亡の原因となるのか、もしくは更に加えられる頭部衝撃が必要なのか議論されている。そこで、アデレード大学(オーストラリア)のAnderson RW氏らは、比較的大きな脳溝があり、ヒトの幼児に似た首の筋肉が弱い子羊のモデルにより、揺さぶられっこ症候群の原因を明らかにしようと検討し、医学誌「J Clin Neurosci.」のオンライン版に報告( 2012年 6月14日)した。
実験に供された子羊のなかで、比較的体重が軽い3頭の子羊は死亡してしまい、「揺さぶり」が致命傷となったと考えられた。死亡した子羊では、死亡しなかったより体重の重い子羊と比べ、軸索損傷、神経反応、アルブミン溢出が広く大脳半球白質、脳幹、頭頸部接合部に広がっていた。その上、これらの死亡した子羊の眼には、網膜内顆粒層の神経の損傷、神経節細胞軸索損傷、広範に広がったミューラーグリアの反応、ブドウ膜のアルブミン溢出がみられた。
以上の結果からAnderson RW氏らは、「揺さぶりだけで、追加の頭部への衝撃を加えることなく、子羊は死に至るケースがある」と述べており、ヒトにおける揺さぶられっこ症候群にも同様のケースが考えられよう。(Medister 2012年7月3日)