新しいモデルマウスを用いてユーイング肉腫の発生母地を同定することに成功
がん研究所発がん研究部と国立医薬品食品研究所の研究グループは、従来作製が困難であったユーイング肉腫のモデルマウス確立に成功した。
本来、肉腫というものは骨や筋肉などの組織から発生するがんで、患者数が少ない稀少がんの代表格である。一方で、若い患者にしばしば発生すること、悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと、早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいる。ユーイング肉腫も小児や若年者に多く、発見が遅れると全身に転移することから、発生のメカニズムの解明と有効な治療法の開発が待たれていた。従来の研究では、染色体転座により形成される融合遺伝子EWS-FLI1がユーイング肉腫の原因遺伝子として同定される一方で、多くのがんとは異なり、ユーイング肉腫の発生起源については良く分かっていなかった。また、信頼性の高い動物モデルも作られていなかったことから、動物モデルを用いた実験が確立していないという問題も長らく続いてきた。
この度、がん研究所と国立医薬品食品研究所の共同研究で、マウス胎児の関節から採取しeSZ細胞と名付けた軟骨前駆細胞にEWS-FLI1遺伝子を導入した実験により、ヒトのユーイング肉腫に極めて類似した肉腫が確実に形成されることが明らかにされた。この際に、EWS-FLI1に対する遺伝子発現応答が細胞によって異なることが肉腫形成に大きな影響を及ぼしていることが分かった。マウスのユーイング肉腫で認められた遺伝子発現の変化はヒトでも同様に生じており、肉腫の増殖の鍵となる遺伝子発現を抑えると、肉腫の細胞死や増殖抑制が生じることも明らかになった。
このように、今回確立されたモデルマウスは、ヒトのユーイング肉腫の病態や病理形態を良く反映していることから、今後、このモデルマウスを利用することで、新しい分子標的治療薬の評価やユーイング肉腫の発生・進展及び転移のメカニズムが明らかになることが期待される。
(Medister 2016年2月9日 中立元樹)
<参考資料>
がん研究所 新しいモデルマウスを用いてユーイング肉腫の発生母地を同定することに成功