新しい概念の抗癌剤開発に繋がるか 北大、東北大による研究結果より
ここ数日、新しい抗癌剤開発に繋がる可能性のある研究結果がいくつか報告されている。
まず1つ目が、Nature Communicationsに7月31日付で掲載された北海道大学遺伝子病制御研究所の藤田恭之教授らの研究グループによる「正常上皮細胞が癌細胞を駆逐するメカニズムを解明」という研究成果だ。この研究では哺乳類培養細胞とゼブラフィッシュを用いて生化学的スクリーニングを行い、正常上皮細胞と変異細胞の境界で特異的に機能している分子を探索した。
その結果、フィラミン、ビメンチンという2つの細胞骨格タンパク質を同定し、これらが変異細胞に隣接する正常上皮細胞内で、変異細胞を取り囲むように集積していることが分かった。さらに正常細胞はこれらを用いて変異細胞を上皮細胞層から積極的に排除しており、正常上皮細胞が免疫細胞を介さない抗腫瘍能を有していることが示唆された。この研究が進めば「隣接する正常な細胞にがん細胞を攻撃させる」という全く新しい概念の抗癌剤開発に繋がる可能性がある。
さらに、8月1日付の英科学誌 Scientific Reportsに掲載された、東北大大学院医学系研究科の加藤幸成教授らによる研究グループによる「がん細胞だけを攻撃する抗体作製技術の開発」という研究成果もある。ムチン型糖蛋白質のPodoplaninは多くの難治性癌だけではなく、一部の正常細胞にも高発現しているため、Podoplaninを標的とする薬剤の開発は困難であった。そこで加藤教授らのグループは、正常細胞と癌細胞に同じ糖蛋白質が発現している場合、蛋白質に付加された糖鎖の種類・糖鎖の付加・位置等が違うことに着目し、その差を見分ける抗体を戦略的に樹立する方法(CasMab)を立ち上げた。これは、ペプチドと糖鎖の両方を同時に認識できる全く新しい概念の抗体となり、Podoplaninに対してCasMabを作製したところ、Podoplaninを発現する癌細胞のみに強い反応性を示したという。これが実用化されれば、副作用が非常に少ない抗癌剤の開発が可能となるであろう。
今後さらに、より新しい考え方の抗癌剤開発が行われることに期待したい。
(Medister 2014年8月7日 葛西みゆき)
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