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日本人の冠動脈疾患と脂質レベルに影響する遺伝的変異

冠動脈疾患は、冠動脈の内壁に徐々に沈着したコレステロール等が血管内腔を狭め、心筋への血流を妨げてしまう疾患である。心筋への血流が滞ると、胸痛や胸部圧迫感などの症状が起き狭心症となる。冠動脈が完全に閉塞し、血流が途絶えた結果、心筋が壊死してしまう状態が心筋梗塞である。この冠動脈疾患の一因となるのが動脈硬化であり、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症の管理が予防として重要だ。

国立国際医療研究センターの加藤規弘氏らのグループは、ヨーロッパの集団で検証された脂質レベルと冠動脈疾患(CAD)のリスクに関連する遺伝子座について、日本人集団で同様の研究を行い、学術誌「PLOS One」に報告(September 26, 2012)した。

ヨーロッパにおいて、LDL-C、HDL-C、トリグリセリドに対するゲノムワイド関連解析から同定された22遺伝子座、48ヶ所のSNPの遺伝子型を、今回、日本人サンプルから決定した。1292例のゲノムワイド関連解析を行った日本人サンプルから、16ヶ所の重要な遺伝子座、6ヶ所の脂質関連を示唆する遺伝子座の候補が得られた。4990例の一般集団サンプルを取得し、1347例のCAD症例群、1337例のコントロール群をジェノタイピングした。そして、更に9ヶ所のSNPに関し、3052例のCAD症例群、6335例のコントロール群を解析した。これらの解析の結果、APOB、APOE-C1、CETP、APOA5の遺伝子座において、有意な民族間の異質性がみられた。LDL-C に対してAPOE rs7412遺伝子座、HDL-C に対してCETP rs3764261遺伝子座、トリグリセリドに対してAPOA5 rs662799遺伝子座に強い関連性がみられた。CADとの関連性は、SORT1 rs611917、APOA5 rs662799 、LDLR rs1433099、APOE rs7412の4カ所でみられた。

以上より、今回試したほとんどの脂質関連遺伝子座が、日本人の脂質体質に関連することがわかった。さらに脂質レベルとCADへの遺伝的感受性については、代謝経路は人種に関わらず共通であったが、原因となるそれぞれの遺伝子座は人種集団ごとに特徴的であった。薬剤の開発においても、人種により効果に違いが出ることはよくあるが、特異性が高いことを前提に開発を進めるなど、今後の薬剤開発における考え方においても参考になる研究成果だ。(Medister 2012年9月28日)

急性冠症候群の臨床 (冠動脈疾患プロフェッション)
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