期間短縮・アフェレーシスを必要としないがん免疫療法の新法
癌細胞の持っている腫瘍抗原を認識し攻撃できるTリンパ球を腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)といい、がん治療のための新戦略として検討されている。これまで、CTLを誘導するためには、腫瘍細胞を認識する抗原提示細胞(樹状細胞)を顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)とIL-4というサイトカインにより単球から誘導し、腫瘍細胞由来の溶解液を加えた後、TNF-αとIFN(αまたはγ)というサイトカインを加えることにより腫瘍抗原提示樹状細胞(樹状細胞ワクチン)を作成し、この樹状細胞ワクチンにTリンパ球を加え、低濃度のIL-2条件下で2~4週間培養することによりCTLを誘導していた。その結果、患者から採取する血液量は多く、CTLの作成まで3~4週間を要した。また、アフェレーシスを行う必要があったが、患者の状態によってはそれが制約となっていた。
福岡がん総合クリニックの森崎隆院長らのグループは、アフェレーシスを行わず、一回の少量採血法でもCTL誘導が期待できる方法を開発し、医学誌「Anticancer Res.」に報告(2012 Jun;32(6):2385-90.)した。
より速やかな機能的CTLの誘導のために、森崎院長らはIL-2、IL-4、GM-CSF、TNF-α、IFN –αの5種類のサイトカインと腫瘍細胞由来の溶解液とを混合し、培養初期から同時に加える新しい方法(N-method)を検討した。その結果、N-methodにより誘導したCTLは、従来法によるCTLと比べ、増殖、表面抗原の発現、細胞毒性に関し同等でることが示された。
腫瘍抗原を提示した樹状細胞と、リンパ球刺激を同時に開始することを狙ったもので、培養期間の短縮、従来法の煩雑な培養操作を単純化することが可能となった。これまでのところ、N-methodによる免疫療法を提供した患者は3例と少ないが、1例は肺を含む全身転移性がある悪性黒色腫の高齢患者だが、1年近く病状が安定しているという。森崎院長らは取材に対し、「今後は更に症例を増やして、臨床検討を行なって行きたい」と述べている。(Medisterニュース 2012年6月18日)