東大の研究グループが、ピロリ菌感染による胃癌発現のメカニズムを解明
東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員らのグループが、ピロリ菌感染から胃癌を発症するまでの過程には、マイクロRNAの一種である「microRNA-210」発現が鍵を握っていることを発見した。この研究成果は、2014年9月5日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
氣駕研究員らはスナネズミなどを用いて実験を行い、ピロリ菌に感染した胃ではmicroRNA-210の発現が顕著に抑制されていることを発見した。microRNA-210の前駆体で異常なDNAのメチル化が起こり、microRNA-210の発現が抑制されたのだ。これによりSTMN1(Stathmin 1)という癌遺伝子の発現が増加し、胃の細胞に異常な増殖が見られることが分かった。
さらに、microRNA -210は、胃上皮細胞の細胞増殖を制御する遺伝子であるSTMN1およびDIMT1を直接的標的として胃上皮細胞の増殖を抑制していること、ピロリ菌に感染しなおかつmicroRNA-210の発現が低下している胃上皮細胞では非感染患者の胃上皮細胞よりSTMN1およびDIMT1の発現量が増加していることを発見した。つまり、ピロリ菌の慢性感染によりmicroRNA-210が発現減少すると、STMN1などを介した腫瘍形成が進行することが解明されたのだ。
ピロリ菌への慢性的な感染者の胃は、多数の炎症細胞が存在していることが分かっているが、これはピロリ菌非感染者の慢性胃炎とは異なる病態を呈している。ピロリ菌感染者が必ずしも胃癌を発症するわけではないが、慢性的な感染の状態が続くことで、胃粘膜が障害と再生をくり返し、胃粘膜の萎縮が見られるようになり、やがて胃癌を発症する。
日本でのピロリ菌感染者数はおよそ5,000万人と推定され、その中でおよそ500万人が胃癌を発症する。現在では、胃炎等の症状が発現する以前、健康診断などの際にピロリ菌感染の有無をチェックする。感染していれば積極的な除菌が推奨されており、将来的に胃癌患者は減少すると予測されている。胃癌発症のメカニズムに関する本研究成果は、ピロリ菌感染と胃癌発症の原因解明に役立つと期待されている。
(Medister 2014年9月12日 葛西みゆき)