概日行動と代謝を改善して痩せる化合物の発見
哺乳類ではほぼすべての細胞が概日リズムをもっており、視床下部の視交叉上核(SCN)がこれらを統合して制御している。この概日リズムは転写因子BMAL1とCLOCKまたはNPAS2がperiod (Per1、Per2、Per3)とcryptochrome(Cry1、Cry2)を活性化し、発現が亢進したPER、CRY蛋白質はBMAL1-CLOCKの転写活性を阻害する。また、Bmal1とClockは、核内受容体REV-ERBの直接的な標的遺伝子として知られ、フィードバックループが形成されている。REV-ERBは2価の鉄原子とポルフィリンから成る錯体の「ヘム」が生体内のリガンドとして作用し、リガンド依存的な転写抑制制御が知られている。
米国スクリプス研究所のBurris TP.氏らは、REV-ERBの合成リガンドSR9011とSR9009の生理作用を検討し、マウスにおいて、概日行動と代謝を改善する薬剤を見出し、学術誌「Nature」に掲載(Vol.485, 3 May 2012)された。
マウスは夜行性で、暗期に行動が活性化する。Burris TP.氏らは、回転輪走行行動を指標に実験を行ったところ、マウスの概日行動が変化し、SR9011の投与により走行回数が減るなどのデータを得た。かた、視床下部での主要な時計遺伝子群の発現パターンも変更されていた。
次に、SR9011やSR9009の代謝における効果を検討した。通常のマウスに12日間薬剤を投与したところ、食餌の量は有意差が無いものの、体重減少と脂肪量の減少がみられた。Comprehensive laboratory animal monitoring system (CLAMS)を用いた検討では、肝臓、骨格筋、脂肪組織における代謝遺伝子群の発現パターンを検討したところ、SR9011を1日2回10日間投与したマウスは、酸素消費量が5%増加した。SR9011投与により夜間摂食量が10%増加、運動量が15%低下した一方で、エネルギー消費量は増加し、脂肪量が減少した。また、肝臓、骨格筋、脂肪組織の代謝関連遺伝子群も発現パターンの変化が見られた。食餌誘導性肥満マウスにREV-ERBアゴニストを投与すると、脂肪量の減少、脂質異常症と高血糖の改善がみられ、代謝関連遺伝子の発現も含め検討したところ、肝臓では脂肪合成とコレステロール合成が低下、骨格筋では脂肪とグルコースの酸化が増加、脂肪組織ではトリグリセリド合成と貯蔵が低下する結果がみられた。
これらの結果はマウスでの結果であるが、顕著な毒性もみられなかったと報告されている。今後ヒトでの検証に成功すれば、日本全国2000万人といわれるメタボリック症候群にとっては朗報となろう。(Medisterニュース 2012/5/14)