毛ケラチン関連蛋白の生物物理学的特徴
毛髪の主要な構成蛋白は、毛ケラチンと毛ケラチン関連蛋白(hair keratin associated protein:KRTAP)である。約100 種類のKRTAP遺伝子が、ヒトの一群の遺伝子としてその配列相同性とリピート構造に基づいて同定されている。毛ケラチンとKRTAPはシステインを豊富に含み、角化帯で強固に結合し合うことが、毛髪における角化の主要メカニズムではないかと推測されているが、これまで生物物理学的特徴含め、不明な点が多かった。そこで、新潟大学大学院医歯学総合研究科の下村裕准教授らは、DNA、RNA、蛋白質レベルでヒトKRTAP2ファミリーを同定し、医学誌「Journal of Investigative Dermatology」に報告(2012, 132, 1806–1813)した。
KRTAP2ファミリーの遺伝子には3′-非翻訳配列の長さに様々な多型があることが明らかとなった。抜き取った毛でKRTAP2遺伝子の転写産物をRT-PCRで検出した。抗KRTAP2抗体による間接的な免疫蛍光法により、ヒトの毛幹の皮質の角化領域にKRTAP2蛋白質の有意な発現がみられた。更に、KRTAP2蛋白質は上皮のケラチンではなく、毛ケラチンに物理的な相互作用することが示された。特に、毛ケラチンの頭部ドメインは、KRTAP2に対する親和性に不可欠であることを見出した。
この結果より、下村准教授らは、「ヒトの毛幹の角質化にとってKRTAPは重要であることが示唆された。」と述べている。今回の報告では遺伝子と物理化学的な特性の一部が明らかとなったのだが、まだKRTAPの生物学的な意義や、疾患との関連性、ファミリー遺伝子の機能的な役割分担など未知の部分が多い。今後の詳細な研究が期待される。(Medister 2012年7月23日)