界面活性剤とラニナビミルオクタン酸による重症肺炎の併用療法(マウス実験)
インフルエンザウイルス感染患者は、重症肺炎と死亡率が高い急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を併発することがある。 一般に、ヒトインフルエンザウイルス感染に対し、主にノイラミニダーゼ阻害薬(NAIS)が処方されるが、NAISの単剤療法では、インフルエンザウイルス感染に併発する重症肺炎の予防には不十分だった。
国立国際医療研究センター、元国際疾病センター長工藤宏一郎氏(現、早稲田大学客員教授/複十字病院)氏らのグループでは、これまでにマウスを致死量のインフルエンザウイルスに感染させて、ヒトにおけるARDSと類似の肺胞虚脱を伴うびまん性肺胞損傷(DAD)を来す動物実験系を確立していた。加えて肺サーファクタントタンパク質(生体の界面活性剤)は、肺では肺サーファクタントの減少がみられ、段階的に血清の肺サーファクタント濃度が増加する現象を見出していた。そこで、本研究では、外因性の人工界面活性剤とNAIの併用療法により、インフルエンザウイルス感染マウスの死亡率に影響を与えるかどうかを検討し、学術誌「PLoS One.」に報告(2012;7(8):e42419. Epub 2012 Aug 1.)した。
実験系として、BALB/c マウスにはインフルエンザA/プエルトリコ/8/34 (PR8) ウイルス (H1N1)を接種し、新たに開発されたNAIであるラニナビミルオクタン酸の存在下、非存在下で外因性の人工界面活性剤を投与した。その結果、併用療法により、NAI単独療法と比べ、ウイルス力価、肺重量とサイトカイン/ケモカイン応答については差が見られなかったが、生存率が高まり、病理組織学的検査、肺浮遊試験及び血液ガス分析では、併用療法群で効果が確認された。
以上より工藤宏一郎氏らは、「人工的な界面活性剤とラニナビミルオクタン酸の併用療法により、インフルエンザウイルスに感染したマウスでは致死率が減少し、最終的にはDADの形成抑制、肺機能を保持できることが示唆された。併用療法により、NAIの単独投与によって改善されないヒトのインフルエンザウイルス感染に併発する重症肺炎の予防に有効である可能性が示唆された。」と記述している。筆頭著者の広島大学福士雅也氏は取材に対し、「ヒトでの治験は現在のところ予定していない。私は基礎の研究者のため、個人的には「この研究が、将来、人の役に立ってくれれば」という願いはあるが、ヒトに応用する為には、動物を用いるなどして今後更なる基礎実験を重ねていかなければならないと考えている。」と述べている。
本研究ではマウスでの検証に留まるが、動物での研究の後は、ヒトでの治験が期待されるテーマである。(Medister 2012年8月14日)