穀類やフルーツに付着するカビ毒オクラトキシンの毒性メカニズム
A. ochraceus菌などのカビが産生するオクラトキシン(OTA)は、腎毒性、催奇形性、生殖毒性、神経毒性、発ガン性、遺伝毒性などが報告されるマイコトキシンの一種で、多くの穀類(米,大麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ、小豆、大豆)、コーヒー、煮干、チョコレート、フルーツなどから検出される。日本では特に規制値が定まってないが、ヨーロッパでは食品ごとに規定値が規定されている。オクラトキシンはナノモルレベルで生理活性を有するが、その分子メカニズムは不明であった。マーティンルター大学(独)のGerald Schwerdt氏らは、10 nM OTAがヒト初代培養細胞の14日間暴露により及ぼされる炎症、悪性形質転換、及び上皮から間葉への分化に関連している遺伝子発現の変化を定量し、学術誌「Molecular Nutrition & Food Research」に報告(Volume 56, Issue 9, pages 1375–1384, September 2012)した。WISP1 とTNF-αは腎細胞でのみOTAにより発現が上昇した。ERK1/2活性の阻害により、WISP1 とTNF-αの発現に対するOTAの効果が抑制された。Wntシグナルやその他のシグナル伝達系は関与していないという結果となった。また、WISP1 とTNF-αの発現は互いに独立していた。
WISP1はガンの進行を促進させる因子の一つであり、間葉系細胞の増殖、骨芽細胞分化を促進し、軟骨分化の抑制に関与する。一方、TNF-αは炎症性メディエーターとして知られている。これらのOTAによる発現制御を、ヒト腎細胞および初代ヒト肺線維芽細胞を用いて検討したところ、WISP1 とTNF-αは腎細胞でのみOTAにより発現が上昇した。ERK1/2活性の阻害により、WISP1 とTNF-αの発現に対するOTAの効果が抑制された。Wntシグナルやその他のシグナル伝達系は関与していないという結果となった。また、WISP1 とTNF-αの発現は互いに独立していた。
以上よりGerald Schwerdt氏らは、「ヒト腎臓細胞が長期間OTAに暴露されると、病原性のあるERK1/2依存性のWISP1 とTNF-α遺伝子発現亢進を惹起されることが予想される。OTAによる腎の長期的なリスクは、合理的に安全であるが低いレベルで存在する。」と結論が述べられた。我が国では食品管理上、ほとんど検出されない物質ではあるが、厚生労働省カビ毒汚染調査班は2004年から2006年に計970試料の調査を行い、オートミールとレーズンの2検体がEUの基準を超えたという報告もある。今後も注意深く健康への影響をみていくべきだ。(Medister 2012年9月21日)