空腹時に美味しい匂いで食欲がわく仕組み
レストランから漏れる料理の匂いで食欲が湧いてくることは、実感したことがない人はいないのではなかろうか。この分子作用メカニズムに関し、新たな証拠が得られた。
フランスINRAのCongar P氏らは、栄養状態によるラット嗅粘膜の匂い物質に対する応答について、食欲を制御するニューロペプチドY(NPY)の効果を検証し、学術誌「PLoS One」に報告(2012;7(9):e45266. Epub 2012 Sep 14.)した。
NPYは脊椎動物において、食欲と飢餓を調節する重要な因子の一つだ。視床下部においてNPYは栄養状態により食物摂取を促進する。これまでに、NPYはげっ歯類において嗅覚系に受容体が存在することが示され、神経増殖因子としての役割が示唆されている。また、NPYは空腹のサンショウウオにおいて、食べ物の匂い物質で誘発される嗅覚応答を直接調節することが示されていた。
Congar P氏らは、匂い物質に対する嗅粘膜応答へのNPYの働きを、給餌及び絶食した成体ラットを嗅電計(EOG)で測定した。NPYの効果は、絶食ラットにおいてEOGの振幅を有意に一過性に増幅させた。また、嗅粘膜において、ウェスタンブロッティングの結果、絶食ラットでY1受容体が過剰発現していることがみられた。
以上よりCongar P氏らは、「NPYはラット嗅粘膜の匂い物質検出の初期段階を調節することが示唆された。これはラットの栄養状態にも依存し、中枢神経系で最も強力な食欲促進する能力のあるNPYに依存することがわかり、嗅覚と食欲に関する強い証拠となった。」と述べている。すなわち、お腹が空くとY1受容体の発現が亢進し、美味しい匂いを感じるとNPYが活性化し、Y1受容体を介して食欲が高まるのだろう。このメカニズムを制御することにより、食欲をコントロールして、生活習慣病にアプローチする新戦略も検討できるのではなかろうか。(Medister 2012年10月4日)