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糖尿病網膜症の進行度はFMD検査で検証できるか?

上腕動脈の血流依存性血管拡張反応検査(FMD検査)は、器具で上腕を締めた後の血流増大により、血管内皮から血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の放出度合いを診る検査で、心筋梗塞や脳梗塞のリスクとなる動脈硬化を早期に評価するためにも使われている。糖尿病領域においても血管の状態を観察することは重要であり、網膜の血管内皮機能障害は2型糖尿病患者の糖尿病網膜症(diabetic retinopathy :DR)の病因となる。

旭川医科大学眼科学教室の吉田晃敏教授(現学長)らは、2型糖尿病で糖尿病網膜症を合併する患者を進行度ごとにFMD検査して、FMD値と進行度の関連性を検証し、医学誌「Curr Eye Res.」に掲載(May 2012, Vol. 37, No. 5 , Pages 446-451)した。

吉田教授らは、2型糖尿病患者の内、DRが診られない患者30名、軽度の前増殖DR患者16名、中程度の前増殖DR患者10名、重度の前増殖DR患者10名、増殖DR患者8名の74名と、同年齢の健常者21名のFMD値を比較検討した。その結果、FMD値は健常者と比較して2型糖尿病患者では有意に減少した。DRが診られない患者、軽度の前増殖DR患者、中程度の前増殖DR患者の間では、有意な差は得られなかった。一方、重度の前増殖DR患者および増殖DR患者ではDRが診られない患者群と比べ、有意にFMD値が低下していた。

編集部の取材に対し、筆頭著者の旭川医大十川健司臨床助教は、「FMD値により網膜症の重症度、進行度を判断する事はできないが、FMD検査により観られる全身性の血管内皮異常は、DRと2型糖尿病患者の血管異常に関連して現れ、FMD値が低値であれば血管内皮機能が悪くなっているということなので、それだけ網膜症が進行する可能性は高いといえる。現在のところ臨床で網膜血管内皮機能を測定する方法はない。上腕動脈のFMD検査により網膜血管内皮機能がより正確に評価できれば、糖尿病網膜症の発症の早期発見、早期介入につなげられ、糖尿病網膜症の予後の改善が期待できる。」と展望を述べた。(Medisterニュース2012/5/11)