糞便試料の新たな保存法を確立、効率的な収集・保存を実現
国立研究開発法人国立がん研究センターと国立大学法人東京工業大学は、腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析に欠かせない研究試料である糞便の簡便な保存方法を開発し、また大腸内視鏡検査により腸内細菌叢が変動しないことを明らかにした。
腸内細菌叢は、培養を行わず細菌がもつDNAを次世代シーケンサーで解析する技術(メタゲノム解析)の発展により、近年、肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、アレルギーなど様々な疾患との関連が報告されている。がんにおいても、発がん要因の特定やバイマーカーとして診断への応用が期待されている。一方で、糞便は1gあたり1,000億個の細菌が高密度に存在しており、常温保存では15分以内に雑菌が繁殖し、メタゲノム解析は困難となってしまう。そのため、排便直後にドライアイスや超低温冷蔵庫で冷凍保存するのが標準的であるが、より簡便な収集と保存方法が強く求められていた。また腸内細菌叢は、約1000種類100兆個の共生細菌で構成され(ヒトの体細胞数は37兆個)、その組成は各個人で異なり「もう一つの臓器」とも呼ばれているが、以前より大腸内視鏡検査(大腸カメラ)による腸内細菌叢への影響が懸念されてきた。
本研究では、日本人健常者8名を研究対象とし、国立がん研究センター中央病院内視鏡科で便を収集、糞便からDNAを抽出し、16SrRNA解析で腸内細菌の菌叢組成(どのような細菌がどれくらいの割合でいるか)の解析を、次世代シーケンサーを用いて行った。凍結保存に代わる保存法として、グアニジン・チオシアン酸塩溶液入り採便容器を用いて便を室温保存する方法で検討を行った。その結果、大腸内視鏡検査の前日(自宅採取)の凍結保存便と室温保存便の相関係数は高く、保存法による差異は少ないことが示された。同様に当日の朝、腸管洗浄剤内服後の初回便の室温保存においても高い相関係数を示し、室温保存でも凍結保存法と遜色のない腸内細菌叢のメタゲノム解析(16Sr RNA解析)が可能であることを実証した。
加えて、大腸内視鏡検査の実施前後で腸内細菌叢の菌叢組成を経時的に比較・検討することで、その影響も検討した。その結果、腸内細菌叢の菌叢組成は個々人で異なるが、各人では検査の前後で極めて高い相関を示し、大腸内視鏡検査の腸管洗浄による影響を受けないことが明らかとなった。
本研究成果により、現在、標準的な収集方法とされる凍結保存・輸送が困難な地域住民のメタゲノム解析や、腸内細菌叢の大規模コホート研究の実施が可能となり、腸内細菌叢に関する研究が世界的に加速し、発がんメカニズムや各種疾患との関連の解明につながることが期待される。
(Medister 2016年7月11日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析による発がん研究の加速に期待 糞便試料の新たな保存法を確立、効率的な収集・保存を実現