緑茶ポリフェノールはShh経路で神経新生を促す
緑茶は紀元前2700年ごろから歴史が始まったとされ、中国で漢方の祖、神農が食していたという記録があるが、我が国でも平安初期に遣唐使らにより持ち込まれたという。江戸時代に入り、庶民にも急速に広がり、主要な飲料の一つとして嗜まれている。
成人の海馬における神経新生は、成人の脳機能や神経疾患に関与している脳の可塑性の機能の一つだ。緑茶の主なポリフェノール成分であるエピガロカテキン-3 – ガレート(EGCG)は、様々な神経変性疾患の予防と治療に使用できることが最近の研究で示唆されている。
中国人民解放軍第三軍医大学のYun Bai氏のグループは、EGCGが海馬依存性の学習と記憶に有益な成体のニューロン新生を促進することを示し、学術誌「Molecular Nutrition & Food Research」に報告(Volume 56, Issue 8, pages 1292–1303, August 2012)した。
Yun Bai氏らは、ヒト成人の海馬神経前駆細胞(NPC)と成体マウスの海馬歯状回において、5 – ブロモ-2′-デオキシウリジン(BrdU)の標識細胞数を増加することを示した。また、マウスの空間認知能力をEGCGが改善することをモーリス迷水路試験により示した。これらはソニックヘッジホッグ(Shh)シグナル伝達経路に関連付けられた。EGCGはヒト培養細胞NPCでShhの標的遺伝子GLI1を正に調節するのに加え、Shh receptor (Patched)の mRNAと タンパク質発現を正に調節した。同様にマウス海馬でもこれらの調節が観察された。Shhシグナルの阻害剤シクロパミンで処理したところ、EGCGにより誘導された海馬の神経新生が減弱した。
以上よりYun Bai氏らは、「EGCGは成体海馬の神経新生を増強することが示唆された。」と述べている。今回、培養細胞とマウスの組織で作用を解析されたが、Shhシグナル伝達経路はがん治療のターゲットとしても研究されており、これらの治療薬の副作用として認知機能低下の可能性も検討する必要がありそうだ。また、EGCGはがん細胞の増殖には影響せず、神経細胞の増殖のみを制御するのだろうか。今後の更なる研究に期待したい。(Medister 2012年9月3日)
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