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肝臓がん300例の全ゲノムを解読

国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野、理化学研究所統合生命医科学研究センター、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター及び広島大学大学院医歯薬保健学研究院による共同研究で、日本人300例の肝臓がんの全ゲノムシーケンス解析が実施され、それらのゲノム情報が全て解読された。

肝臓がんは、日本における部位別がん死亡者数で男性では3位、女性では6位である。年間約4万人が肝臓がんと診断され、3万人以上が死亡しているという。また、アジア地域とアフリカ地域で発症頻度が高く、世界全体の部位別がん死亡率では第2位に挙げられている病気でもある。

近年のDNA解読技術の飛躍的な進歩に伴い、次世代シーケンサー(Next generation sequencer: NGS)を用いて、様々な病気のゲノム変異を包括的に解析することが可能になってきている。特に、がんはゲノム異常が蓄積することによって発症し進行する“ゲノムの病気”であり、世界中でがんの網羅的ゲノム解析やゲノム情報に基づく薬の開発・個別化医療が精力的に行われている。

この度の上記共同研究グループは、主にウイルス肝炎を背景として発症した日本人300例の肝臓がん組織と同一患者由来の血液からDNAとRNAを抽出し、それらの全ゲノム情報を最新のNGSと東京大学ヒトゲノム解析センターの生命科学専用スーパーコンピュータ「SHIROKANE」を利用して解読し、肝臓がんに起きているゲノム変異を全て同定することに成功した。その結果、約70兆塩基にものぼるゲノム解読から、1つの腫瘍あたりのゲノム異常が様々なパターンで見つかったという。

この研究は、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)のプロジェクトの一環として行われたものであり、単独のがん種の全ゲノムシーケンス解析数としては世界最大規模となった。本成果から、がんのゲノム配列情報に基づいた肝臓がん治療の個別化へ発展する可能性がある。また、これらゲノム変異を標的とした肝臓がんの新しい治療法や診断法、予防法の開発にも貢献するものと期待されている。現在、ICGC/TCGAにおいて、世界中の様々ながんの全ゲノムシーケンスデータを共有して解析する、大規模ながん種横断的研究プロジェクトPCAWGが進行中である。今後、我が国によるPCAWGにおけるがん横断的全ゲノム研究の成果についても、大いに期待されるであろう。
(Medister 2016年4月18日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 肝臓がん300例の全ゲノムを解読 -ゲノム構造異常や非コード領域の変異を多数同定-