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血清脂肪酸結合タンパク4(FABP4)濃度の高血圧の予測因子の可能性

多くの高血圧症は、遺伝的素因と環境因子が複雑に関与した結果、原因が特定できない本態性高血圧症(EHT)として扱われる。脂質シャペロンの脂肪酸結合タンパク4 (FABP4/A-FABP/aP2)は脂肪細胞とマクロファージに発現する。脂肪細胞からFABP4が分泌されること、肥満、インスリン抵抗性、アテローム動脈硬化症と血清FABP4レベルの上昇が関連することなどが示されていた。しかし、EHTにおけるFABP4の役割についてはほとんど知られていなかった。そこで、札幌医科大学第二内科の古橋眞人助教および三浦哲嗣教授らのグループは、EHTにおける血清FABP4濃度などを検証し、医学誌「American Journal of Hypertension」のオンライン版に報告(2012 Jun 21)した。

古橋助教らは、正常血圧(NT)の対象者18例、治療歴のないEHTの対象者30例において、血清FABP4濃度を測定した。EHTの対象者は、正常血糖高インスリンクランプ法によるインスリン感受性指数M値に応じて、インスリン感受性EHT(EHT-S)18例とインスリン抵抗性EHT(EHT-R)12例に分けた。血清FABP4濃度のEHT-Sにおける上昇はNTに対し統計的に有意ではなかったが、EHT-Rの血清FABP4濃度はNTに対し有意に高いレベルであった。FABP4濃度は年齢、体格指数(BMI)、血圧、およびトリグリセリドと正の相関があり、M値と負の相関があった。また、FABP4濃度は調整後の平均動脈圧の独立した予測規定因子であった。

次に、若年正常血圧男性30例を高血圧の家族歴の有無により分割 (FH(+) / FH(-)、それぞれ15例)し、FABP4濃度を検証した。その結果、FH(+)グループは、FH(-)グループと比べ、有意にM値が低く、FABP4濃度は高値であった。また、FABP4濃度は独立したM値の説明変数であった。

以上より、FABP4は血圧上昇およびインスリン抵抗性の形成に寄与することが考えられた。本論文の主要な著者である古橋眞人助教は取材に対し、「今回の研究の若年正常血圧の対象者は平均23歳程度ですので、将来の高血圧発症を追跡するには少なくとも20~40年はかかり、現時点では現実的ではなく、予測精度の検証はできません。しかし、これまでの報告とあわせて、FABP4濃度は肥満、インスリン抵抗性、高血圧、動脈硬化などメタボリックシンドロームの総合的かつ有用なバイオマーカーとなることが期待されます。また、我々はすでに心血管イベントによる死亡の予後規定因子になる可能性も報告しています(Furuhashi M, et al. PLoS One 2011)。FABP4は単にバイオマーカーとしてのみならず、脂肪細胞由来の生理活性物質(いわゆるアディポカイン)として働いている可能性があります。」と述べ、今後の研究の発展に期待が寄せられる。(Medister 2012年6月27日)