骨肉腫の治療効果予測に有効なマイクロRNA特定
国立研究開発法人国立がん研究センターは、代表的な希少がんである骨肉腫において、予後に大きく影響する術前化学療法の効果について、その予測に有効なマイクロRNAを2種類特定した。
骨肉腫は骨から発生するがんで、軟骨肉腫やユーイング肉腫などと共に原発性悪性骨腫瘍に分類されている。日本では、人口100万人に対して約2人、全国での年間発生は200~300人の代表的な希少がんである。10~20代の若年者の膝周りや肩の周囲に発生することが多いのが特徴であるが、高齢者にも一定の割合で発症するという。初診時遠隔転移のない骨肉腫に対する標準的な治療法は、術前化学療法→手術→術後化学療法で、術前化学療法が効いた場合の5年生存率は80%程度であるが、効かない場合は20%程度と大きな差がある。
本研究では、治療前の切開生検サンプルを用いて、奏効性に関わるマイクロRNAを網羅的に調べ、化学療法の奏効症例と抵抗症例を比較したところ、2種類のマイクロRNA(miR100とmiR125b)の発現が、抵抗症例において著しく高いことが分かった。骨肉腫症例20例の追加症例においても同様に、この2種類のマイクロRNAの発現が高い症例では、化学療法に抵抗性を示すことが検証され、臨床的な有用性が強く示唆された。骨肉腫細胞を用いた機能解析実験でも、この2種類のマイクロRNAの発現を亢進させると骨肉腫細胞の増殖や浸潤が亢進したり化学療法剤で誘導されるアポトーシスに抵抗性が増すことが分かった。また、この2種類のマイクロRNAの発現を抑制すると、骨肉腫細胞は化学療法剤に対して感受性を示すようになることも明らかになった。また、2種類のマイクロRNAによって誘導される分子機構として、sirtuin (silent mating type information regulation 2 homolog 5, SIRT5)の発現誘導を確認した。SIRT5は、エネルギー産生、アポトーシス、シグナル伝達に関わるミトコンドリアに存在する。SIRT5は肺がん細胞において増殖、浸潤、化学療法剤への抵抗性に寄与するとの報告があるが、骨肉腫での役割は未だ不明であるという。2種類のマイクロRNAそしてSIRT5の研究から、新たな治療法につながる発見が今後期待できる。
国立がん研究センターでは、今後シスメックス株式会社と共同で、治療前に効果を予測することに有効なマイクロRNAを活用した診断技術の開発に取り組んでゆく予定である。また、本研究を発展させ、術前化学療法の効果が認められない予後不良の骨肉腫症例の分子機構解析を進め、分子標的薬など新しい治療法の開発を目指す方針である。
(Medister 2016年12月19日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 骨肉腫の治療効果予測に有効なマイクロRNA特定 予後不良な骨肉腫の新規治療法開発を目指す