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高等哺乳動物の視覚神経回路に発現する遺伝子を発見 ―東大病院・河崎洋志特任準教授グループ―

東京大学医学部附属病院・大学院医学系研究科の研究グループが、色や形を認識するのに不可欠であるP 細胞に選択的に発現する遺伝子の特定に成功したと発表した。これは同大医学部附属病院・大学院医学系研究科の河崎洋志 特任准教授と同研究科の岩井玲奈大学院生らによるもの。
視覚神経系には、M細胞、P細胞、K細胞の3つの特徴的細胞が資格情報伝達を担っているが、P細胞は色や形の資格情報を伝達するとくに重要な神経細胞とされている。本研究の成果により、これまで未解明の部分が多く残されている視覚神経系の情報処理、回路形成機構や視覚異常の病態の解明に寄与できるものと期待されている。
同研究の論文は、7月12日より英国科学雑誌「Cerebral Cortex」オンライン版に掲載されている。

ヒトは外部情報の8割以上を視覚を通して取得しているといわれ、視覚障害は日常生活に与える影響も大きい。したがって、視覚神経系の情報処理の仕組みや疾患の病態を解明することは極めて重要な課題としてある。しかし、研究で多く用いられるマウスは視覚神経系の発達が乏しいためP細胞を遺伝子レベルで解析することが困難で未解明な部分の多い分野だった。
失読症などの視覚神経系の難病はメカニズムそのものが未解明のため、治療も困難とされてきた。今回の研究を通して、こうした視覚神経系の病態の解明と治療に大きな前進が得られる可能性が広がった。

河崎洋志特任準教授らの研究グループは、視覚神経系が発達している高等哺乳動物のフェレットに着目して独自のアプローチを試みることで、ヒトの言語能力の獲得に重要な関連があると指摘されるFoxP2という遺伝子が、ヒトのP細胞に相当するフェレットのX細胞に選択的に発現することを突き止めた。
さらに同研究グループは、ヒトと同じP細胞をもつサルによる実験も試み、FoxP2がサルの視覚神経系においてもP 細胞に選択的に発現していることを発見した。このことは、長く議論されてきたヒトの視覚系の進化について一定の結論を与える重要な手掛かりになるという。

今後、このFoxP2 遺伝子の研究をさらに進めていくことでヒトの発達した視覚神経系の仕組みや疾患の病態の解明と解決に大きく貢献すると、医学界では大きな注目を集めている。(Medister 岡崎 2012年7月13日)


東京大学プレスリリース