麻疹ウィルス、今後はD9型に変遷か?
国立感染症研究所・感染症情報センターは、地方衛生研究所から報告された「病原体個票」に基づき、全国の麻疹ウィルス分離・検出状況について、2007年から2010年までの結果を集計した。麻疹ウィルスはパラミクソウイルス科モルビリウイルス属に属するRNAウィルスで、麻疹の原因となるウィルスである。
2011年1月13日の時点での集計結果によると、まず2007年においては計30都道府県から482件で、D5型を主とする麻疹ウィルスが患者の体内から検出された。2008年には、23都道府県から266件で前年と同様にD5型を主とする麻疹ウィルスが検出された。2009年になると麻疹ウィルスの検出件数は大幅に減少し、5都府県から合計8件が検出されたのみであり、D5型の割合が30%台にまで減っていた。一方、2010年は10都道府県から17件の麻疹ウイルスが検出されている。その内訳をみると、2007年から2008年までの間に非常に高い頻度を占めていたD5型の検出報告が1件しかなく、代わりにD9型という過去にはほとんど検出例の無かったウィルス型が6件で検出されている。
遺伝学的観点からみると、ウィルスは進化速度、すなわち遺伝子の配列の変化速度が非常に早いため、例えばある種のウィルス型を撲滅しても、それに代わる新たなウィルス型が発祥して感染が拡大し、猛威をふるうという現象が頻繁に生じることが多い。今回の国立感染症研究所の報告内容を見ても、その傾向が示唆されているのではないだろうか?衰えたD5型ウィルスに代わって、今後は2010年において多く検出されたD9型ウィルスに対して厳重な警戒態勢の構築が急務となるだろう。(中立元樹)
リンク