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血小板活性化因子(PAF)生合成遮断による未解決な神経因性疼痛の緩和

神経因性疼痛は既存の鎮痛薬では取り除くことができないのが現状である。この痛みは糖尿病やがんに伴っても発生するものである。神経因性疼痛の発症の持続の分子メカニズムは完全には解明されていないが、ATPやPAFが関連分子として報告されている。しかし、まだ有効な薬剤が開発されていない。そこで、国立国際医療研究センター、国立がん研究センター、東京大学、理化学研究所の共同研究チームは、生体膜リン脂質の多様性形成と細胞機能について研究を行っており、その中でリン脂質メディエーターであるPAFの生合成酵素(LPCAT2)も研究対象としている。今回、研究チームはLPCAT2遺伝子欠損マウスを作製し神経因性疼痛との関連を調べた。

血小板活性化因子(PAF)はリン脂質メディエーターで、細胞外の刺激に応じて合成される。現在、PAFの生合成酵素としてLPCAT1とLPCAT2の2種類が知られている。今回、それぞれの酵素欠損マウスを作製し神経因性疼痛を評価した。疼痛モデルは坐骨神経部分損傷モデルである。LPCAT1欠損マウスは神経因性疼痛の症状の1つであるアロデニアを示したが、LPCAT2欠損マウスはアロデニアが軽減していた。このモデルでは脊髄後角でミクログリアが増加していた。LPCAT2も脊髄ミクログリアに発現している事を確認できた。また、脊髄中のPAFの存在はLPCAT1欠損マウスでは確認できたが、LPCAT2欠損マウスでは検出できなかった。細胞をPAFやATP(神経因性疼痛を誘発する)で刺激するとPAFが産生される。ATP刺激によるPAF産生は、PAF受容体拮抗薬でPAFシグナルを遮断すると減少した。これは産生されたPAFが再びPAFを産生するフィードバックループの存在を示唆している。それゆえに、このループが神経因性疼痛を悪化や持続させるPAF pain loopではないかと推測されている。

共同研究チームでは、このループの遮断による新規カテゴリー鎮痛薬開発へ発展させたいと考えている。そして、既存の薬剤では効かない患者の未解決な痛みを少しでも取り除ける可能性を見出すことを大きな目標としている。

(Medister 2017年4月10日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 血小板活性化因子(PAF)生合成遮断による未解決な神経因性疼痛の緩和 次世代鎮痛薬開発のターゲット候補