“ITが医療を変える” IT技術により、医療にもたらされる“変革”とは
アメリカに本社を置くIBM社(International Business MachineCorporation)は、アメリカ国内のがんセンターなどと協力し、自社が開発した “Watson”を使い、医療サービス(癌治療分野)向上に向けたソリューションを開発・展開している。Watoson は、2011年にアメリカのクイズ番組で人に勝利した実績もある人工機能だ。具体的には、60万件以上の研究結果、42誌の医学専門誌からの200万ページのテキストおよび臨床試験データを学習し、医療記録や経過など150万件の癌治療歴を調べ、患者の状態により適した治療法を導き出すことが出来るという。例えば、およそ数十年分の癌の治療に関する歴史から必要な情報をほんの数秒で導き出すことができる、と考えれば分かりやすいであろう。
日本でもIT技術により革新的な進歩が期待される分野がある。富士通の開発した「京」は創薬分野などでの研究に利用されているが、大規模生命データ解析とよばれる研究では癌遺伝子のゲノム情報など膨大な量のデータ解析を行っている。これにより、新たな癌の予防・診断・治療法などが開発されることが期待されている。
他にも、日常の診療情報を複数の医療機関で共有する取り組みなどがここ数年で日本全国に広まっている。患者からすれば、同じことを何度も説明する必要もなくなるし、緊急搬送時に対応がスムーズになるなど利点も多い。IT技術の進歩により医療の分野で“何か”が確実に進化しているようだ。
コンピュータは何かしらの命令を与えれば壊れるまでそれをくり返し、Watosonのように自分で学習する能力があるものもある。しかし、患者に医療を提供するのは、あくまで医療者であり、機械ではない。医師が診療方針に悩んだ時に膨大な情報の中からヒントとなる情報を探し出す、あるいは紹介先の医療機関に患者より先に情報だけを届ける、という“情報を適切に操作するツール”であるべきなのだ。その情報を元に実際に治療方針を決定し、患者への治療を行うのは、あくまで医療者の手であることを忘れてはならないであろう。
(Medister 2014年7月8日 葛西みゆき)