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RET融合遺伝子陽性の肺がんに対する分子標的治療薬「バンデタニブ」の有効性を確認

国立研究開発法人国立がん研究センター(略称:国がん)及び東病院呼吸器内科長後藤功一氏を研究代表者とした共同研究グループは、遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」に基づいてスクリーニングしたRET融合遺伝子陽性の肺がん(以下、RET肺がん)患者に対して、分子標的治療薬・バンデタニブを投与したところ、その約半数にがんの縮小効果が認められることを臨床試験で確認した。

日本における死因の第1位はがんであり、その中で肺がんはがん死亡原因のトップである。現在、日本で年間に約11万人が肺がんを発症し、約7万人が肺がんで死亡しているという。そして、肺がんの約85%を占める非小細胞肺がんにおいては、約2/3の患者が手術不能の進行がんとして発見され、抗がん剤による薬物治療や放射線治療などを受けている。しかし、治療効果は十分でなく、より効果的な新しい治療法の開発が期待されてきた。

国がんでは、2012年に肺がんの新しい遺伝子異常としてRET融合遺伝子を同定した。基礎研究で、RET融合遺伝子陽性の肺がんにはRETを阻害する分子標的治療薬が有効である可能性が示され、RET肺がん患者に対する新たな分子標的治療の開発に注目が集まってきた。しかしながら、RET肺がん患者の割合が非小細胞肺がんの1~2%と希少なため、治療の有効性を確認するための臨床試験に必要な数の患者を集めることが難しいという問題点も浮上した。そのため、国がんでは2013年に全国規模の遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」を立ち上げ、2013年2月~2015年3月に1,536名の進行非小細胞肺がん患者に対して遺伝子検査を行い、34名のRET肺がんを特定した。このうち参加規準を満たした19人のRET肺がんの患者が分子標的治療薬・バンデタニブの投与を受けた。その結果、バンデタニブの治療を受けたRET肺がんの患者の約半数に、がんの明らかな縮小が認められた。

今回の結果で、進行RET肺がんの患者に対してバンデタニブが有効であることが世界で初めて示されたことにより、RETを阻害する分子標的治療薬がRET肺がんの新しい治療になることが期待されるようになった。現在、進行RET肺がんの治療薬として、バンデタニブが国内で保険適用されるように、製薬企業と申請に向けた協議を行っている。また、今後もLC-SCRUM-Japanを通じて、希少頻度の肺がんの遺伝子スクリーニングを行い、臨床試験へ結びつけることで、有効な治療薬を患者のもとへ早期に届けることを目指す方針である。
(Medister 2016年11月21日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター RET融合遺伝子陽性の肺がんに対する分子標的治療薬「バンデタニブ」の有効性を確認 -分子標的治療薬が新しい治療法になる可能性-