Type 3 IP3 受容体による脱毛の調節
理化学研究所 脳科学総合研究センターの御子柴克彦シニア・チームリーダーらのグループは、Type 3 IP3 受容体(IP3R3)が皮膚の毛包で特異的に遺伝子発現し、毛周期の調節に重要な役割を担っていることを見出し、医学誌(Journal of Investigative Dermatology)のオンライン版に報告(2012年5月10日)した。
御子柴克彦シニア・チームリーダーらは、IP3R3遺伝子欠損マウス(Itpr3−/−)に脱毛と再成長を繰り返す顕著な脱毛症が見られることを発見した。毛周期が撹乱されており、脱毛時期は休止期から成長期への移行時期に相当した。成長期の毛母細胞の髪の成長と増殖活性はItpr3−/−で正常だったが、休止期-成長期移行段階での休止期棍状毛は毛包に接し、より密接に接している対照マウス(Itpr3+/+)と比べ容易に抜けてしまった。Itpr3−/−の休止期棍状毛の周囲のケラチノサイトには、ランダムな方向に伸長した疎らなサイトケラチンフィラメントが観察された。更に、 Itpr3−/−の休止期毛包のケラチン6陽性バルジ細胞(幹細胞)で、毛包幹細胞の分化能を抑制するNFATc1が核内移行していなかった。
以上より、御子柴克彦シニア・チームリーダーらは、「ケラチノサイトのサイトケラチンフィラメントの調整を経て、脱毛はIP3R3/NFAT依存性シグナル伝達経路によって制御されている。」と述べている。
主要な著者の久恒智博研究員はメカニズムに関し、「NFATは、Ca2+/カルモジュリン依存性脱リン酸化酵素のカルシニューリンにより脱リン酸化され活性化することが様々な細胞で知られている。このことから、IP3R3からのカルシウムシグナルがカルシニューリンを活性化し、NFATを脱リン酸化して、NFATの核移行を制御していると考えられる」と述べている。
また、ヒトの疾患との関連性と今後の研究展望に関し、「IP3受容体は、ヒト脊髄小脳変性症の原因遺伝子の一つであり、我々にとって発生・免疫・神経可塑性などを含む様々な現象に非常に重要な分子と考えられる。現在までにヒトIP3R3とヒトの毛髪の疾患との関係は報告されていないが、IP3R3がヒトの疾患に関わっているか明らかにすることは今後の課題の一つだ。今回の発見から、休止期の毛を取り囲むバルジ細胞の細胞骨格(デスモソーム、ケラチンフィラメント)の制御にIP3R3シグナルが重要な働きを果たすことが強く示唆されたので、今後は、IP3R3シグナルが細胞骨格を制御する分子メカニズムや、IP3R3からのカルシウム放出を引き起こす細胞外からのシグナルの解明が課題だ。」と述べ、研究の発展が期待される。(Medisterニュース 2012年5月23日)