<ドクターエディ・ラボ> 出版バイアスによる研究発表への影響(1)出版バイアスとは?
アカデミック・コミュニケーションの教授、Dr. Eddyが医学論文のジャーナル投稿に関するイロハをやさしく解説するドクターエディ・ラボ。シリーズ3では出版バイアスによる研究発表への影響について説明します。
(1)出版バイアスにまつわる逸話
出版バイアスという言葉を聞いたことがあるでしょうか? 科学文献を悩ましているという問題の出版バイアスについて的確に説明している逸話があります。まずはこちらから見てみましょう。
“砂漠の中の監獄で、年長の囚人が新参者と親しくなりました。若い方の囚人は、次から次へ脱走計画を幾度となく話します。数ヵ月後、彼は脱走。1週間の逃亡後、看守らが彼を連れ戻します。半死状態、空腹と喉の渇きで正気ではありません。彼は年老いた囚人にいかに悲惨だったか、砂漠が果てしなく続き、オアシスはなく、方向転換しても失敗に終わった惨状を話します。年老いた囚人はしばし聞いた後「ああ、知ってるよ。俺も20年前にそんな脱走計画を何度と試みたからね」と言いました。若い囚人は言いました。「やったの? どうして言ってくれなかったの?」と。年老いた囚人は肩をすくめてこう言いました。「悪い結果を言いふらす奴はいるかね」1”
この年老いた囚人の最後の言葉は印象的ですね。老人は「わざわざ悪い結果を言いふらす人などいないだろう」といっています。これを研究に置き換えて言うと、「悪い結果をわざわざ発表しない」というのが出版バイアスのことです。
(2)出版バイアス
上記の逸話で出版バイアスについてなんとなくイメージがついたと思いますが、もっと詳しく説明したいと思います。出版バイアスとは、研究において価値のない仮説を指示するような自分が支持しない結果あるいは「ネガティブ」な結果よりも、有意義な結果を示す「ポジティブ」な結果を著者がジャーナルへ投稿し、そしてまた、ジャーナルの編集者がそのポジティブな結果の論文を出版するおそれが高いという現象のことを言います。
別の言い方に変えると、出版する内容が出版社にとって好ましいか、好ましくないかで、論文出版の可能性が左右されます。もっと言うと、どの出版社に投稿するかが非常に重要になってきます。
その一方で、そのような偏りにより、たとえばですが、「新しい治療法は効果がないことを示す研究」といったようなネガティブでも重要な結果が、アカデミックなコミュニティに全く届かない可能性があるという問題があるのです。
(3)出版バイアスによって生じる問題点
この出版バイアスによって生じる“ポジティブな結果を示す研究を出版する傾向における偏り”は、論文出版における偏りの1つにすぎませんし、こうした偏りは出版の決定に影響を及ぼします。以下の3つのポイントを理解することが重要です。
1.何がこれらの偏りを生むのか?
2.様々なタイプの偏りや、それらが出版の決定にどのような影響を及ぼすのか?
そして、それらへの対処法は?
3.出版バイアスを打ち破る必要性について
この3つを念頭において、次回は出版バイアスの要因について説明していきたいと思います。
参考文献
1. Sterne JAC, Egger M, Moher D. (Editors) (2008). Chapter 10: Addressing reporting biases in Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions (eds. JPT Higgins and S Green). Version 5.0.1 [updated September 2008]. The Cochrane Collaborationより
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