SERVE- HF and Beyond
はじめに
欧州で行われたASV臨床試験「SERVE-HF」では、ASV(ASV: adaptive servo ventilation)導入により予後が有意に悪化するという結果が得られた。SERVE-HFにおいて全登録患者数の10%以上(133名)をフォローし、心不全患者におけるASV導入について豊富な臨床経験と多くのデータを保有するOlaf Oldenburg氏をゲストに迎え、本邦でASV導入経験が豊富な8名の先生とラウンドテーブル・ディスカッションが開催された。SERVE-HFの結果やASVの適応を中心に、活発な議論が展開された。
SERVE-HFでは「ASV導入により全死亡率、心血管死亡率が有意に悪化する」という結果が得られた。しかしこの結果は、中枢性睡眠時無呼吸( CSA: central sleepapnea)優位で左室駆出率が低下した心不全( HF-rEF: heart failure with reducedejection fraction)患者を対象にした試験であり、EFが維持された心不全( HF-pEF:heart failure with preserved ejectionfraction)患者や、閉塞性睡眠時無呼吸( OSA: obstructive sleep apnea)優位の心不全患者にまで一般化することはできないとOldenburg先生は強調した。SERVEHFの患者群以外へのASVの適応については、いくつかのランダム化比較試験が予定されており、それらの試験の結果を踏まえたうえでさらなる議論を行いたいとした。
また、SERVE-HFでは低呼吸の定義が広かったことで、広い病態をカバーしてしまい、本来ASVの適応でなかった心不全患者がSERVE-HFに取り込まれてしまった可能性を指摘した。そこで、無呼吸低呼吸指数( AHI: apnea hypopnea index)よりもふさわしい診断マーカーとして、睡眠中に酸素飽和度( SPO2)が90%以下となる時間をT90と定義し、低酸素血症を治療ターゲットにすべきではないかと提唱した。
ASV導入にあたっては安全であり、効果が期待できることが求められるとして、SERVE-HFで予後が悪化した患者群の同定と、その原因を明らかにする議論も必要であると述べた。
ラウンドテーブル・ディスカッション
SERVE-HFの結果について
小糸:SERVE-HFの対象患者は安定期の心不全患者ということでした。しかし、ほとんどの患者の左室駆出率(LVEF: left ventricular ejection fraction)は30%以下であり、植え込み型デバイスの使用率は50%以上であることから、実際にはやや不安定な重症心不全だったのではないでしょうか。
Oldenburg:確かに患者の平均LVEFは32~33%でした。また、中央ヨーロッパではデバイスの使用率が日本よりも高いのです。これはガイドラインの問題であり、診療報酬の違いでもあります。
小糸:抗不整脈薬について、ASV導入群は対照群に比べて有意に高い併用率でした。結果に影響しなかったのでしょうか。
Oldenburg:有意差はありました。しかし、いくつかのモデルで調整すると統計学的には結果に影響しません。
中村:持続的陽圧呼吸(CPAP: continuous positive airway pressure)の大規模ランダム化比較試験であるCANPAPでは、初期の死亡率がCPAP導入群で多いように見えました。つまり、重症心不全患者のなかには、陽圧換気を導入してはいけない患者群がいるのではないでしょうか。今回、SERVE-HFで患者を直接見られたなかで、陽圧換気を導入するとリスクが高まる、例えば心血管イベントが発生しやすくなる患者背景などを感じ取ることはあったのでしょうか。
Oldenburg:それは重要な課題です。体液貯留がどの程度起きているのか、楔入圧(wedge pressure)はいくつか、この2点は関係していると私は考えます。また、右心機能も低い場合には注意すべきでしょう。心房細動の有無も関係しているかもしれません。これらとASV導入における死亡率の相関を明らかにしなければいけません。しかしドイツではもはや、SERVE-HFの対象となった患者にASVを導入することはほぼ認められていません。ぜひ日本で検証していただきたいと思います。
安藤:SERVE-HFでは多くの国や施設で行われましたが、国や施設間で結果の違いはあったのでしょうか。
Oldenburg:国や施設間の違いについての詳細は今後明かされるでしょう。私も今後、SERVE-HFの結果と当施設のデータ、特に死亡率を比較しようと考えています。ひとつ言えるのは、睡眠呼吸障害(SDB: sleep disordered breathing)の診断において、ドイツではポリソムノグラフィ(PSG: polysomnography)による診断が必須ですが、フランスではポリグラフィ(PG: polygraphy)のみでよいという違いがあることです。この違いは大きいでしょう。
義久:SERVE-HFに関連した追加のデータは今後公表されるのでしょうか。
Oldenburg:心エコーや血液検査などのデータが2016年の前半には公表されるだろうと運営委員会から聞いています。
小糸:慢性心不全患者には、ASVが有効である患者と有効でない患者が存在し、右室機能が重要であるとOldenburg先生は述べておりました。今後公表されるSERVE-HFのサブ解析には心エコー検査が含まれるそうですが、右室収縮機能の指標である三尖弁輪移動距離(TAPSE: tricuspid annual plane systolic excursion)などの右室機能も含まれるのでしょうか。
Oldenburg:サブ解析でどのパラメータが使われるのか、私にはわかりません。ただ、SERVE-HFの試験中では、最終的にどのパラメータが使われるのかわからないので、当施設ではTAPSEをルーチンのパラメータとして使っています。
小糸:チェーン・ストークス呼吸(Cheyne Stokes respiration)は有害か代償かという議論についてどう思いますか。
Oldenburg:我々の患者やデータを見る限り、長期的にはCSRは有害であると考えています。
中村:単純なCSRの有無だけでなく、周期の違いなどによるCSRの重症度分類は可能なのでしょうか。
Oldenburg:考え方には同意します。実際、周期が増えるほど心不全は進行します。周期などを取り入れたアルゴリズムの構築を目指しているのですが、簡単ではありません。そこで提唱しているのが低酸素血症の測定です。数値をもって判断でき、信頼できるパラメータです。
ASVが適応される患者群について
葛西:心房細動や僧帽弁逆流などをもつHF-pEFの患者に対しては、以前からASVを導入していると思いますが、今でもASVを使用し続けているのでしょうか。続けているのであれば、患者にどのような説明をしているのでしょうか。
Oldenburg:患者全員に電話して、多くの方に来院していただいて説明しています。患者にはSERVE-HFの結果について、「あなたにはリスクがあるかもしれません」と説明し、反応をうかがいます。もし患者が、リスクを受け入れるからASVの導入を続けてほしいと主張すれば、署名をしていただいています。しかし、そのような患者は全体の10%程度です。
もし患者が困惑しているようなら、別の方法でフォローアップします。例えば、OSAとCSAの出現率が半分ずつの混合型であればCPAPに切り替えます。もし患者にCSRが残っている場合、どのような処置が適切なのかいまだにわかりませんが、まずは在宅酸素療法(HOT: home oxygen therapy)を行います。
また、講演の最後で述べたように、低酸素血症に注目する必要があると考えています。患者にCSRがあり、SPO2が90%以下になるのであれば、低酸素血症を治療ターゲットにすべきだと考えています。しかし、データが十分でないのが現状です。データが多く集まれば、新たな治療法となるでしょう。
葛西:ASVの使用を中断すると心不全が悪化する患者が当施設にいます。Oldenburg先生の施設にも、そのような患者はいるのでしょうか。
Oldenburg:もちろんいます。しかしどのような患者がそれに該当するのか、注意深く見極める必要があります。ASVの使用を続けることでベネフィットを受ける患者もいれば、悪化する患者もいます。その違いを明らかにするために、患者レジストリを作成する計画があります。
今すぐにできることは、常に患者を観察することです。睡眠治療においても、心臓医の存在が必須でしょう。
義久:今回のSERVE-HFの結果を受けて、ASVの使用が積極的に勧められる患者とはどのような群でしょうか。
Oldenburg:まずはHF-pEF患者における試験を実施する必要があります。しかし現在までに、ASVの機序を解明する研究は十分とは言えません。右心室、左心室にどう機能するのか、充満圧に影響はあるのか。試験を実施する前に、これらの疑問を明らかにする義務があります。我々は現在、HF-pEFを対象にした小規模なASV導入試験を予定していますが、ASVの機序の解明も欠かせません。SERVE-HFと同じことを繰り返してはいけないのです。
義久:LVEFが30~45%の患者なら、比較的安全にASVを導入できるのでしょうか。
Oldenburg:導入できるかもしれませんが、注意を払う必要があります。もし、LVEFが40%でCSRを合併しており、除細動器が植え込まれているのなら、我々はASVを導入するでしょう。なぜなら、仮にLVEFが低下しても除細動器が作動するため、リスクは低いと判断するからです。しかしながら、患者ごとに考える必要があり、個別に判断すべきです。一概には言えません。
肺うっ血解除、睡眠の質向上のためのASV導入について
安藤:心機能が低く、CSRを合併する慢性期の患者へのASV導入には慎重になるべきです。ただ、ASVは肺うっ血の治療に有効であり、急性期や回復期では肺うっ血を解除するためにASVを導入したいと考えています。日本では入院中だけでなく、退院後も2~3ヶ月はASVを使うことがあります。この点についてはどうお考えでしょうか。
Oldenburg:病態生理学的な観点から、それは有効でしょう。ただ、日本とヨーロッパの医療環境の違いを認識していただきたいと思います。ヨーロッパでは急性非代償性心不全(ADHF: acute decompensated heart failure)による入院はたった5日間程度ですが、日本はもっと長いでしょう。また、我々の場合には利尿剤を投与することが多いのです。日本の患者よりもwedge pressureが低いことが理由なのかもしれません。
菅野:ASVは心拍出量を増やし、血行動態を改善する効果があり、患者も楽に感じるところがあります。そのため、急性期に肺うっ血解除のためにASVを導入することがあります。このような使用方法についてはどのようにお考えでしょうか。ドイツでも実施しているのでしょうか。
Oldenburg:急性期の患者にASVを含む陽圧換気を実施することは、心拍出量の増加、利尿作用の促進という意味において有効でしょう。
しかしながら、当施設ではそのような使い方はまれです。当施設にある3台のASVデバイスはアラームシステムと接続されておらず、看護師や救急救命スタッフにとっては使い勝手が悪いためです。また、ASVデバイスは小型ですが、ドイツ人は大型の機器を好む傾向にあります。このような背景の違いがあります。
菅野:急性期にASVを導入して以降、慢性期でも肺うっ血が残る患者に対してASVを使用し続ける患者が当施設でも少なからずいます。SDBの有無に関わらず、在宅でもASVの導入を続けることについてはどうお考えでしょうか。
Oldenburg:我々やフランスのデータから、ADHFの患者の80~90%がCSRを合併することが明らかになっています。急性期を離脱してからも、CSRが長く残ることがあります。その場合にはASVの使用を続けることは有効かもしれません。しかし、SERVE-HFのような慢性期の患者には推奨できません。
ただ、サブグループを同定する必要はあるでしょう。退院から数ヶ月後にはASVを中断してもよい患者と、使用し続けなければいけない患者の2種類がいると考えられます。退院後も毎月患者を診察する日本なら、その違いを明らかにできるかもしれません。
佐田:患者にとって快適性は重要だと、個人的には考えています。快適性という点においては、CPAPよりもASVのほうが優れているのでしょうか。
Oldenburg:難しい問題ですが、SERVE-HFのデータを調べなければいけません。症状と死亡率は関係しているのでしょうか。言い換えれば、症状が改善した患者と、死亡率が改善した患者との比較がないのです。ご存じのように、SDBは夜間の問題であるため、症状を把握することが困難です。症状を評価する新たなマトリクスを設ける必要があります。
佐田:もしASVを使うことで患者がよく眠れるのであれば、私はASVを使うと思います。
Oldenburg:それならPSGを実施し、患者の睡眠データを確認すべきです。SERVE-HFでは、ASVの導入によってレム睡眠の時間が約1割増えたと聞いています。レム睡眠では交感神経活性が亢進されますが、それが死亡率とどう関係するのか、現時点ではわかりません。
安藤:当施設に、徐波睡眠がまったくなく、睡眠ステージが1または2しかない患者がいたのですが、ASVを導入して1週間後には徐波睡眠が増え、浅い眠りが減ったという症例がありました。酸素レベルの変化に関係なく、ASVが有効である不眠の患者がいると考えています。酸素レベルと睡眠の質には本当に相関があるのでしょうか。
Oldenburg:ASVによって睡眠の質が向上するという報告はしばしばあります。しかしながら、徐波睡眠が増えても無呼吸・低呼吸が残る場合があります。逆に、AHIの減少が睡眠の質の改善につながるとは限りません。AHIが25回/時であっても、PSGのデータ上は睡眠の質が良好である場合もあります。その理由は明らかになっていません。
安藤:AHIが心不全の適切な指標とは思えないのです。
Oldenburg:私も同感です。AHIよりも適切なマトリクスを新たに作るべきでしょう。
安藤:陽圧換気では、過剰な圧は心拍出量を減少させ、患者をリスクにさらすことになります。OSAとCSAの両方がある混合型の慢性心不全患者に陽圧換気を導入するとき、呼気気道陽圧(EPAP: expiratory positive airway pressure)の設定で注意していることは何でしょうか。
Oldenburg:圧はできるだけ低く設定します。マスクのフィッティングは日中にしかできませんが、患者をベッドに横たわらせ、看護師か検査技師がそばにいる状態で30~60分間デバイスを動作させ、血圧を測定します。例えば、動作前の血圧が120 mmHgだとして、動作後に95 mmHgまで降下しても他の症状がなければ、特に心配する必要はありません。しかし、動作前の血圧が90 mmHgで、動作後に75 mmHgまで降下するのであれば注意を要します。もし患者が何らかの症状を訴えるようであれば陽圧換気は中止します。これらに一律な基準はなく、個々に判断します。
CPAPの適応について
葛西:左室収縮不全のない心房細動で、CSA優位の患者にCPAPを導入していますか。
Oldenburg:患者にリスクをもたらすため、現在は導入していません。また、CSAに伴うCSRの治療には十分に注意を払うべきです。HOTなど、陽圧換気以外の方法を導入するときでも同様です。
葛西:では、OSA優位の心不全患者にはCPAPを使い続けているのでしょうか。
Oldenburg:使い続けています。ドイツの学会はそのように推奨していますし、我々も正しいと考えています。特にOSAを合併するHF-pEFの患者には有効でしょう。
葛西:OSAとCSAの割合がちょうど半分くらいの患者で、特別に気を付けることは何でしょうか。
Oldenburg:OSAが優位になればCPAPを導入します。しかしながら、もしASVのほうが有効であればASVを導入するでしょう。できることといえば、患者を注意深く観察し、デバイスの効果を確認することです。
義久:CPAPとASVの使い分けについて、どのようにお考えでしょうか。
Oldenburg:PSGまたはPGを実施し、OSA優位であればCPAPを導入します。そうしなければ診療報酬の対象とならないという事情もあります。
沢田:日本では欧米に比べて冠攣縮性狭心症の頻度が高く、冠攣縮性狭心症を有する患者でOSAを合併することも多いようです。こうした症例にはCPAPもしくはASVの使用を推奨していますが、そもそも急性冠動脈症候群や冠攣縮性狭心症を予防するために陽圧換気療法は有効なのでしょうか。
Oldenburg:OSAが夜間に発生する急性心筋梗塞のリスクファクターであるというデータは存在します。OSAを治療すれば、急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性はあります。しかし、それを証明するランダム化比較試験はありません。
2年前に、両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器 (CRT-D: cardiac resynchronization therapy-defibrillator)の患者を対象に行った試験では、OSAに由来するショックは深夜から午前6時にかけて起きるのに対して、CSAに由来するショックは24時間ランダムに起きていることが明らかになりました。SERVE-HFの患者の死亡時刻も24時間ランダムでした。SERVE-HFでは約半数の患者が植え込み型デバイスを使っていましたが、植え込み型除細動器(ICD: implantable cardiac defibrillator)のショックが起きる回数は、ASV導入群のほうが低い傾向にありました。しかしながら、その理由は不明です。
沢田:夜間睡眠中の低酸素血症がこれらのイベントを引き起こしているのかもしれない、ということでしょうか。
Oldenburg:そうです。そこで陽圧換気が有効に作用するかもしれません。
日本とヨーロッパの違い
小糸:日本とヨーロッパでは医療制度が異なり、フォローアップの状況も違います。この点についてはどのようにお考えでしょうか。
Oldenburg:ドイツでは外来の診察は3ヶ月ごとに行います。フランスやイギリスではまた異なるでしょう。日本では外来患者を毎月診察するということなので、より注意深く患者を観察できるのは素晴らしいことです。
安藤:ドイツではPSGを実施するとお話されましたが、ASVの導入後も実施しているのでしょうか。
Oldenburg:SERVE-HFでは、フォローアップ前の段階でフルPSGを実施しました。ASV導入中もPSGを実施しました。先ほどASV導入によってレム睡眠の割合が増えたとお話しましたが、PSGを実施したからわかったことなのです。
安藤:日本の健康保険制度では、LVEFが35%以下かつ脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP: brain natriuretic peptide)が著しく高値の重症心不全患者のみASVを導入できます。しかし、この現状はSERVE-HFの結果と矛盾します。なぜでしょうか。
Oldenburg:この場で深く議論できませんが、日本では外来患者を毎月診察できるので、より詳細に患者の状況を把握できるはずです。患者を診察するなかで、もしBNP値が下がり、ニューヨーク心臓協会(NYHA: New York Heart Association)による分類クラスが改善したとすれば、その患者はSERVE-HFの対象患者とは異なると判断できるでしょう。患者と接する機会が増えることで、ベネフィットを享受できる患者と享受できない患者の違いを同定できるはずです。
佐田:日本の健康保険は、ASVは心不全のすべてをカバーしていません。そのため日本では、心不全患者にASVを導入することが容易ではありません。ASV導入のクライテリアを示していただけないでしょうか。
Oldenburg:心房細動をもつHF-pEF患者ではCSAを高く有します。心房細動とCSAはつながっているため、その患者にはASVを導入しています。他にも、心臓発作につながる心疾患、腎不全などがあるときにはASVを導入します。
しかしながら、いずれの場合もベネフィットを示さなければいけません。そのためには死亡率の長期的な推移に関するデータを多く集める必要があります。ただ、この場で呼びかけたいのは、試験を実施する前にデバイスの作用機序の研究をしてもらいたいということです。
もうひとつ大切なことがあります。HF-pEF患者にASVを導入することは有効であると考えられていますが、HF-pEFをどう定義するかという大きな問題があります。
HF-pEFの定義の難しさ
佐田:HF-pEFの定義の問題とは何でしょうか。
Oldenburg:この10年間、HF-pEF患者に何らかの治療法を行いベネフィットを検証する試験が多く実施されたのですが、ほとんどが失敗に終わりました。HF-pEFの定義が広すぎて、多くの病態を含んでしまったからであると考えられます。まずはHF-pEFの定義を明確にする必要があるでしょう。
義久:HF-pEFにはヘテロな病態が多く、さまざまな原因疾患があるので、明確な定義を作りにくいという点は同意します。
菅野:ASVのターゲットとなるHF-pEF患者とはどのような群でしょうか。
Oldenburg:まずはHF-pEFを明確に定義することです。その患者がSDBを有していれば陽圧換気を導入し、血管抵抗や心拍の変化、リモデリングの有無を観察すべきでしょう。私見ですが、血管抵抗の減少が長期的にはベネフィットをもたらすのではないかと考えています。
菅野:HF-pEF患者におけるASV導入を評価した試験はあるのでしょうか。
Oldenburg:小規模のパイロット版を計画しているところです。CSRを合併するHF-pEF患者20~30名を対象にASVを導入する二施設ランダム化試験です。今はどのパラメータを設定し、どの変化を観察すべきか策定しています。HF-pEFの定義については、欧州心臓学会(ESC: European Society of Cardiology)のガイドラインに則り、充満圧を評価します。BNPの高値やCSAの合併も含めたものです。
佐田:CSRが高い頻度で起きるHF-pEF患者にASVを導入するのはやめるべきなのでしょうか。
Oldenburg:そのような患者を対象にした小規模のランダム化試験を実施する予定があります。そこで判断すべきでしょう。
中村:HF-pEF患者には高齢者が多く、脳梗塞や高血圧、糖尿病などを併発しやすい傾向があります。CSAは心原性だけでなく、脳梗塞に由来する場合があるので、脳梗塞がある人は試験から除外するなどの手法を採らないと、HE-PEF患者の試験は難しいのではないでしょうか。
Oldenburg:おっしゃる通りです。もうひとつ、性別も重要です。我々のHF-rEF試験では90%が男性で、アメリカでは男性が100%です。しかし、HF-pEF患者には女性が多くいます。女性ではCSAが少ない傾向にあり、年齢が低い一方で、睡眠時間は長いという特徴があります。しかし、性別によってどのような違いが起きうるのか、現時点では予測できません。今後明らかにすべきでしょう。
最後に
Oldenburg:今回はご招待いただきありがとうございました。
近い将来、新しいデータとフィードバックをもとに、また議論したいと考えています。その際には、ADHFや慢性心不全に関する日本のデータも多く提供していただければ幸いです。
上段左より:中村 憲史 先生、菅野 康夫 先生、義久 精臣 先生、葛西 隆敏 先生、沢田 尚久 先生 下段左より:安藤 眞一 先生、佐田 誠 先生、Olaf Oldenburg 先生、小糸 仁史 先生
総括
佐田:欧州で実施されたASV臨床試験「SERVE-HF」の結果は我々にとっては大きな衝撃であった。
しかし同時に、論文を詳細に検討すると、いくつかの疑問が生じたのも事実である。その意味でも今回、全登録患者の10%以上をエントリーされているOldenburg先生をお招きし、多くの意見交換ができたことは極めて意義深かった。議論を続けるなかで改めて認識させられたことは、我々はASVの真の適応病態をまだ何もわかっていない、そもそもASVの作用機序が充分にわかっていない、さらには心不全と睡眠呼吸障害 (SDB) との関係さえも充分にわかっていないということである。こうした状況である以上、心不全におけるASVを含めた陽圧呼吸療法の有効性を評価するためには、SDBの評価は必須である。1つの治療法が確立されるためには、あらゆるケースを検証し、結果を謙虚に、厳しく評価していく必要がある。今後、世界に誇れる、きめ細かい医療体制を有する我が国だからこそ発信できるエビデンスがあると信じている。